産業用(製造用)に次ぐロボットの用途として有望視されているのが、医療と介護福祉の領域だ。特に後者は高齢者人口増の見込まれていることもあり、今後5年で1兆円近い市場を形成するという予測もある。その中で日本のロボットは存在感を示せるだろうか。
これまでロボットの利用される分野は製造業が主であったが、ロボット技術の発展に伴い、その分野は急速に拡大しようとしている。接客など対人サービスや災害対策、介護医療などがその代表例と目されており、調査会社Frost&Sullivanでは、外科支援の手術ロボット活用がアジア太平洋地域で2018年に5億9000万ドル(約700億円)の市場を形成すると予測している(超音波などの画像誘導手術とロボット支援手術の合計)。
医療用ロボットといえば米インテュイティヴ・サージカルの手術支援ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」が約2億円と高価ながら、全世界で約3000台、日本国内でも約200台が稼働している。この背景には内視鏡手術など低侵襲(体の表面をなるべく傷つけない)術式への要望があることは確かだが、医療行為の高度化、高齢者人口増加による相対的な医師不足なども、医療用ロボットの必要性を高めている。
市場規模という観点からすると、高齢者支援ロボットは手術支援ロボットより大きな市場を形成すると見込まれる。同じくFrost&Sullivanの予測では、2014年で9億ドル以下の市場規模が2020年には70〜80億ドル(8400〜9600億円)になるとしており、先進国を中心とした諸国の高齢化が大きなニーズと市場を生み出す格好だ。
「日本も含めた諸国で高齢者の在宅介護/在宅治療支援というニーズがあり、このニーズに沿ったロボットは導入を目前としたテスト段階に入っている」とFrost&Sullivanのアナリスト、Siddharh Dutta氏は現状を解説する。Dutta氏は加えて、アメリカでは既に高齢者支援ロボットに関する規制緩和と価格低下が始まっており、その流れは日本にも波及するだろうとも話す。
ただ、規制緩和と価格低下が起こっても、すぐさま家庭に高度な機能を持った高齢者向け支援ロボットが普及するというシナリオは想像しにくい。Palmi/PalroやPepperなどコミュニケーション機能を持ったロボットに支援アプリがインストールされ、徐々にロボットの存在が浸透していくというシナリオの方が現実味を帯びているだろう。
今現在の話をすれば、病院やケア施設、訪問介護における介護関係者に向けた支援ロボットが真っ先に市場を形成しそうだ。ともに装着することで腰部への負担を軽減するサイバーダイン「HAL」やイノフィス「マッスルスーツ」は医療機器設計/製造に関する展示会「MEDTEC Japan 2015」(東京ビッグサイト 2015年4月22〜24日)にも展示され、来場者の関心を集めていた。
今春より介護ロボット導入に際しての補助金制度が始まったこともあり、イノフィスでは既に介護関係を中心に約100施設へ装着型の支援ロボットを納入している。同社は菊池製作所の南相馬工場(福島県南相馬市)にて量産を開始しており、2015年夏にはバリエーションモデルの販売も行う予定だ。
自律的な判断能力を持ち、あたかも家政婦のように生活を支えてくれる高機能な生活支援ロボットについては、一般普及の時期を予想するのが難しい。
トヨタやパナソニック、ホンダなどが開発を進めているほか、ヨーロッパでは「Giraff Plus」や「Care O Bot」などのロボットが家庭内での実証実験を行っているが、高機能型支援ロボットに求められるニーズが多岐に渡るため、早期の製品化は困難だと予想される。
加えて、人に寄り添うという目的からベンダーが自国および近隣地域での導入を念頭に活動しており、高機能型支援ロボットを手掛けるベンダーの海外進出は当面ないだろうというのがDutta氏の予測だ。工業製品でありながら、地域特性へのマッチングを求められるのも、高機能型支援ロボットならではの特徴と言えそうだ。
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