経済学者マイケル・ポーター氏と米国PTCの社長兼CEOであるジェームズ・ヘプルマン氏の共著であるIoTに関する論文「IoT時代の競争戦略」が公開。その内容を解説する本稿だが後編では、製造業が勝ち残るのに必要な“考えるべき10のポイント”について解説する。
ハーバードビジネススクール教授で、「競争の戦略」や「5つの力」などの著書を持つ経済学者マイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)氏の、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)に関する最新論文「IoT時代の競争戦略(How Smart Connected Products Are Transforming Competition)」が公開された。共著は米国PTCの社長兼CEOであるジェームス・E・ヘプルマン(James E. Heppelmann)氏である。これを受けて、IoTを取り巻く企業の環境の変化をまとめた同論文の内容を解説する勉強会をPTCジャパンが開催した。
本稿では3回に分けてその内容を紹介している。IoTおよびスマートコネクテッドプロダクト(接続機能を持つスマート製品)がどういうものかを紹介した前編、これらの変化が業界構造にどのような影響を与えるかを紹介した中編に続いて、後編では具体的にこの変化に対して考えなければならない“10のポイント”について解説する。
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前編と中編では、業界全体の枠組みについて主に解説してきたが、それでは企業が具体的にIoTやスマートコネクテッドプロダクトで勝ち抜いていくためにはどういうことを考えなければならないのだろうか。
ポーター氏は論文で企業が直面する「10の新しい戦略の選択肢」が見えてきたと述べている。この10のポイントにおいてそれぞれの企業に最適な方策を見つけ、戦略的なポジショニングを構築することが勝ち残る道だという。
スマートコネクテッドプロダクトの登場により、製品が持つ機能や特性は大きく拡大することになる。機能を追加するためのコストが下がるため、製造業にとればより多くの機能を入れてみたいと考えるかもしれないが、加えるべき機能や特性はよく吟味する必要がある。コストを上回る価値を顧客に提供できるとは限らず、さらに特性や機能だけを競うようになると戦略的差別化が図れずゼロサム型(参加者の得点と失点の総和が常にゼロになること。一定規模のモノを奪い合うという状況)の競争に陥ってしまうからだ。それでは、盛り込むべき機能をどのように決めるべきなのだろうか。
まずは「コスト以上に大きな価値を顧客にもたらす製品特性が何なのか」を見極めなくてはならない。例えば、米国の給湯器メーカーであるA.O.Smithは家庭向け給湯器を対象に作動不良の監視・通知機能を開発したが、この機能のために料金を払おうとする家庭はほとんどなかったという。一方で産業用の給湯器やボイラーに関しては、同様の機能の利用率は高く、広く普及しつつある。顧客に対しどのような価値を提供しその対価をどれくらい得られて、機能を搭載するコストがどれくらいかかるのか、というコストと価値の比較に常に立ち戻る必要がある。
次にどのセグメントに狙いを定めるのかを考えなければならない。特徴や機能の価値は市場セグメントごとに異なるため、セグメントを定めることで、どういう機能や性能が必要になるかが自動で決まることもある。
さらに、自社がその分野でどういう競争をしているのかということを見極め、競争優位性につながる機能や特徴を取り入れることが重要だ。例えば、ハイエンド戦略に基づき競争を展開しているのであれば、より豊富で高付加価値な機能を盛り込むことで差別化を図れるかもしれない。一方、低コスト戦略を掲げている場合は、製品の中心的な機能や運用コストを低減するような機能など、基本的な機能だけに集中すべきだろう。
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