NXP Semiconductors(NXP)がFreescale Semiconductors(フリースケール)の買収を発表した。今回の買収によって、売上高がルネサス エレクトロニクスに並ぶ可能性が高い車載半導体事業だが、互いの製品ポートフォリオを補完する関係になっていることも注目だ。
2015年3月2日、半導体業界にビッグニュースが飛びこんできた。NXP Semiconductors(NXP)がFreescale Semiconductors(フリースケール)を118億米ドルで買収するというものだ(関連記事:NXPがフリースケールを118億ドルで買収)。
家電大手のPhilipsから半導体部門がスピンアウトしたNXP、通信機器大手のMotorolaの半導体部門を出自とするフリースケール、ともに世界でも有数の半導体メーカーとして知られているが、両社が現在ともに注力しているのが車載半導体事業だ。
EE Times Japanの報道によれば、両社統合後の車載半導体事業の売上高は、現時点で世界の車載半導体市場でトップに立っているルネサス エレクトロニクスを上回る見込みだという(関連記事:フリースケール買収のNXP、車載半導体で首位ルネサスに肉薄か――世界半導体シェアは7位へ)。
今回の買収は、車載半導体事業の売上高を大きく伸ばすだけでなく、互いの製品ポートフォリオを補完する関係になっていることも注目だ。
まず、車載半導体の中核となる車載マイコンについては、フリースケールがルネサスに次ぐ世界シェア2位の位置を確保している。フリースケールは、2010年4月にNECエレクトロニクスとルネサス テクノロジが合併してルネサス エレクトロニクスが発足するまで、車載マイコンで世界シェアトップであり、現在もエンジンやトランスミッションなどのパワートレイン向けマイコンではルネサスよりも有力とされる。
一方のNXPは、ARMの「Cortex-Mシリーズ」コアで展開を急拡大している汎用マイコンと比べて、車載マイコンの存在感は小さい。ただし、車載システムのコンピュータであるECU(電子制御ユニット)において、車載マイコンとほぼセットで用いられる、CANやLINといった車載ネットワーク対応のトランシーバICは世界シェアトップである。
両社の車載マイコンと車載トランシーバの実力が端的に示されたのが、BMWがSUV「X5」に世界で初めてFlexRayを導入した際のことだ。X5では、走行制御機能にかかわるセンターECUと各4輪のコーナーモジュールを接続するためにFlexRayを利用しており、車載マイコンはフリースケール、車載トランシーバはNXPの製品を採用していた(関連記事:欧州でのFlexRay採用事例と取り組み)。
自動運転技術を実用化する上で必要となる車載情報機器でも、両社の製品は補完し合う関係になる。
フリースケールは、車載情報機器向けのプロセッサとして「i.MXファミリ」展開しており、圧倒的トップシェアのルネサスの対抗馬の1社とみられている。NXPも車載情報機器向けにプロセッサ製品を展開しているが、デジタルラジオ対応のチューナICが中心だ。
またNXPは車車間や路車間といったV2X(Vehicle to X)通信に用いるICを開発しており、General Motors(GM)が2016年に市場投入する「キャデラック」に採用されるなど実績も出ている。国内市場で採用を広げているキーレスエントリーに用いる通信ICもそろえている。フリースケールは、こういった無線通信系の車載ICをほぼ手掛けていない。
自動ブレーキに代表される運転支援システムにはさまざまなセンサーが必要だ。これらの車載センサーについても、統合後の新会社は製品ラインアップを充実させることになる。
フリースケールは、エアバッグに用いる加速度センサーや横滑り防止装置(ESC)向けのジャイロといった慣性センサーで高い実績を持っている。さらに、高速走行時の自動ブレーキや追従走行に用いられている77GHz帯のミリ波レーダーについては、コストを大幅に低減できるSiGeベースのデバイスを提供しており、市場をInfineon Technologiesと二分している(関連記事:大衆車にも求められる「予防安全」)。
NXPは、アンチロックブレーキシステム(ABS)に用いられている磁気抵抗(MR)センサーの有力企業だ(関連記事:NXPがASIL-D対応の磁気抵抗センサーICを開発中、2013年1月から量産)。
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