FlexRay入門の最終回。今回は「欧州での採用事例」「開発効率化のためのさまざまな取り組み」「今後の動向」などについて紹介する。
前回、連載第3回「FlexRayプロトコルの概要(その2)」では、「エンコーディング/デコーディング」「同期方法」「スタートアップ」の概要を説明しました。
最終回となる今回は「欧州での採用事例」「開発効率化のためのさまざまな取り組み」「今後の動向」などを紹介します。
2006年、世界で初めてBMW社がSUV車「X5モデル」にFlexRayを採用して以来、欧州の高級車メーカーを中心に徐々に採用が広がっています。ここでは、BMW社を中心に幾つかの採用事例を紹介します。
BMW X5では、アダプティブドライブ(Adaptive Drive)と呼ばれる電子ダンパー制御システムにFlexRayを採用しました。
このアダプティブドライブシステムでは、走行速度やステアリング角度、前後方向の加速度、ホイールの加速度、車高などの各種データを基に、スタビライザーバーの旋回モータとショックアブソーバーの電磁バルブを制御します。これにより、走行状況に応じたボディロールとダンピングを制御することができ、優れた乗り心地と安全性、操作性といった通常、相反するニーズを両立させています。
図2は、このアダプティブドライブシステムのFlexRayトポロジーです。中央の制御モジュールECUとそれらに接続されるダンパーモジュール(サテライトECU)の計5ノードから構成されています。個々の車輪の励起を各ダンパーモジュールが制御し、ピッチとロールが発生した場合は高レベルのアルゴリズムを搭載した中央の制御モジュールがシャーシ全体の制御システムと連携して車両自体をコントロールします。このような統合的な協調制御ではデータ通信量が増加し、高い応答性が求められるため、従来のCANでは対応が難しく、FlexRayが必要となりました。
2008年に発表された「BMW 7シリーズ」モデルでは、FlexRayの採用規模がさらに拡大しています。ドライバーアシスタンス、シャーシ、パワートレインなどのECUと接続し、ノード数は13です。トポロジーはスター型とバス型が混在したハイブリッド型で、CANやMOST(モスト)といった他の通信規格ネットワークとのゲートウェイも含まれています。通信速度は10Mbit/s、シングルチャンネル(Aチャンネルのみ)です。
また、FlexRayを車両の“バックボーン(Backbone)ネットワーク”として活用しています。これは、車両上の幹線道路のようなもので、バックボーンネットワークを通してシャーシやパワートレインなど複数のドメイン間にまたがるデータ処理を行うため、通信データ量は膨大となり、FlexRayによる高速通信が必要となりました。これによって、より効率的で洗練された協調制御を実現しています。
なお、2009年に発表されたAudi社の「A8」モデルでも、同様にFlexRayをバックボーンネットワークとして採用しています。
図4は、同じくBMW社におけるFlexRayをバックボーンネットワークとして活用する車載ネットワーク構想図です。“幹線道路”であるFlexRayを介して、CAN、LIN(リン)、FlexRay、MOSTといった各ドメインの要件に応じた複数のネットワークがそれぞれ相互に接続されています。
2010年に発表された「BMW 5シリーズ」モデルでは、インテグラルアクティブステアリング(Integral Active Steering:前後輪統合制御ステアリング)と呼ばれるシステムの協調制御にFlexRayが使われています。
このインテグラルアクティブステアリングは、フロントホイールの切れ角を車速度に応じて変えるシステムにリアホイールのステアリング機能を組み合わせたもので、いわゆる4輪操舵システムです。時速60km/h未満では、リアホイールがフロントホイールと反対方向に操舵されるため、低速走行における取り回しや俊敏性がよくなります。一方、60km/h以上では、リアホイールがフロントホイールと同じ方向に素早く操舵されることにより、走行安定性が向上し、より快適な運転を実現します。
このシステムの実現には、ヨーレートセンサー、横加速度センサー、ステアリング切れ角センサーといった各センサーや操舵アクチュエータが高速かつ安定して協調動作する必要があります。そのため、BMW 5シリーズモデルでは、それらを制御するECUがFlexRayで接続され、互いに通信を行っています。
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