欧州でのFlexRay採用事例と取り組み次世代車載ネットワーク FlexRay入門(4)(2/3 ページ)

» 2011年04月22日 11時03分 公開

2.さまざまな取り組み

 これまで紹介してきたように、FlexRayは高い信頼性と統合的な協調制御に適応する優れた機能を装備しています。一方、定義すべき通信パラメータの数が60以上にもなり、かつそれらを厳密に関連付ける必要があるなど、その仕様は複雑です。よって、“通信ネットワークをどのように効率的に設計すべきか”が大きな課題となっています。

 以下、この課題に対する欧州での取り組みを幾つか紹介します。

パラメータセット

 FlexRay通信パラメータの考えられる組み合わせは膨大な数となり、通信ネットワークを開発するたびに、それらを評価し、決めていくことは非常に手間の掛かることです。よって、あるパラメータの組み合わせ“パラメータセット”を事前に評価、定義し、開発ごとにそれらをテンプレートとして適用することで開発の効率化を図る取り組みが行われています。

 図7は、ある欧州自動車メーカーにおけるパラメータセットの一部です。同社ではパラメータセットを1種類定め、複数車種に搭載する全てのFlexRayクラスタにこれを適用することで開発の効率化を実現しています。

欧州メーカー パラメータセットの一部 図7 欧州メーカー パラメータセットの一部 
※カッコ内はFlexRayパラメータ名称

 このように、ある特定のパラメータセットを毎回使用することで開発の効率性を高めることはできますが、その反面、開発の柔軟性は失われ、車種ごとに最適化設計を行うことも難しくなります。開発の柔軟性と効率性のトレードオフの中で、さまざまな要因を考慮しながら“パラメータセット”をどの程度用意するべきなのかを見極める必要があります。例えば、日本における標準化団体「JasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture:ジャスパー)」においても同様に、パラメータセットを評価、定義する試みが行われており、ドメインごとに複数種類のパラメータセットを用意しています。

データベースフォーマット「FIBEX」

 車両開発の際、複雑なFlexRayの通信仕様やその膨大な通信パラメータをどのように複数の部門間、企業間で伝達、運用していくかが大きな課題となります。例えば、紙の仕様書によって展開する場合、そこには仕様に関する誤解釈や設定ミスが生まれる潜在的な要因が大きくあり、また各開発者にとっても手間の掛かるものとなります。

 この課題を解決する効果的な方法が標準的なデータベースフォーマットの活用です。ファイルフォーマットによって通信仕様を定義し、共有することで、開発中における伝達ミス、設定ミスが生じる可能性を大幅に減らすことができます。また、標準的なフォーマットであることから、多くの汎用的な開発ツールがこのデータベースファイルに対応しており、後工程でファイルをそのまま使うことができるため、工数の削減にもつながります。これはFlexRayだけではなく、CANなど他の車載ネットワークに関連した開発でも同様に有効ですが、複雑なFlexRayではより効果的です。

データベースの活用 図8 データベースの活用 (※ベクター・ジャパンの資料を基に作成)

 FlexRayでは、「FIBEX(Field Bus Exchange Format:ファイベックス)」と呼ばれるフォーマットが標準的なデータベースフォーマットとして活用されています。FIBEXは、欧州標準化団体「ASAM(Association for Standardisation of Automation and Measuring Systems)」にて策定された、XMLスキーマベースのフォーマットです。FlexRay専用フォーマットではなく、CAN、LIN、MOSTといった他の通信プロトコルにも対応していますが、CANではDBC(ディービーシー)、LINではLDF(エルディーエフ)といった別の専用フォーマットが既に安定して使われていることもあり、現時点ではFlexRayのみに使用されています。既に、多くのFlexRay関連製品がFIBEXに対応しているため、FlexRayのデータマネジメントシステムやツールチェーンを比較的簡単に、低コストで構築することができます。

FIBEXのユースケース概観 図9 FIBEXのユースケース概観 (※ベクター・ジャパンの資料を基に作成)

開発ツールの活用

 通信仕様の複雑さや求められる信頼性が高いことから、FlexRayネットワークの開発では、十分な機能を持った開発ツールを使って工数の削減、品質の向上を図ることが、これまで以上に重要となります。

 ここでは、欧州の自動車メーカー3社(Daimler社、BMW社、Audi社)にて行われている試みを紹介します。

 近年、開発期間の短縮、開発工数の削減などのため、実際のネットワークやノードが完成する前にシミュレーション環境を構築して、ネットワークやノード仕様の妥当性を確認することがよく行われています。このとき、シミュレーション用の開発ツールにネットワークやノードの仕様を組み込む必要があり、その工程における作業工数や品質管理などは無視できない課題です。

 一方、自動車メーカーでは、例えば以下のような詳細事項をそれぞれの独自仕様として定め、車両に搭載する全てのノードに適用しています。

  • いつ、どのような条件でノードがパワーオフになるか? 送信を開始、停止するか?
  • 特定のフレームやシグナルはどのような方法で、どの程度の頻度で送信されるか?
  • 送受信の際に分割・統合される長いフレームはどのように処理されるか?

 このような共通仕様を、毎回、シミュレーション用の開発ツールに手動で組み込むことは、無駄な作業といえるかもしれません。

 これに対し、上記の自動車メーカーでは独自の共通仕様に適応した開発ツールの自動モデリングパッケージを用意し、関連サプライヤーに展開、そして先のFIBEXファイルを基に開発ツールのシミュレーション実行モデルを自動的に生成することによって、開発の効率化、品質向上を実現しています。

効率的な開発ツールの活用例 図10 自動車メーカー − サプライヤーにおける効率的な開発ツールの活用例 
(※ベクター・ジャパンの資料を基に作成)

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