自動運転技術で重要な役割を果たす、車車間通信(V2V)や路車間通信(V2I)などのV2X用通信ICの展開に注力しているオランダの半導体メーカーNXP Semiconductors。同社の車載分野のシニア・バイス・プレジデントを務めるドゥルー・フリーマン氏に、米国や欧州におけるV2Xの開発状況などについて聞いた。
オランダの半導体メーカーNXP Semiconductors(以下、NXP)は注力分野の1つに自動車を挙げている。同社の車載半導体といえば、CANやLINをはじめとする車載ネットワーク用のトランシーバIC、デジタルラジオを含めたカーエンターテインメント用のDSPやチューナIC、ABSなどに用いられている磁気抵抗(MR)センサーなどが主力だった。
しかし今後は、自動運転技術などで重要な役割を果たす車車間通信(V2V)や路車間通信(V2I)などのV2X用通信ICを筆頭に、次世代の車載ネットワークに対応するトランシーバICや進化型スマートキーの通信IC、ドイツの自動車メーカーが開発を進めている48Vシステム対応品といった新たな需要を取り込んで、さらなる成長を図ろうとしている。
今回は、NXPでセールス&マーケティングおよびオートモーティブ担当シニア・バイス・プレジデントを務めるドゥルー・フリーマン氏に、米国や欧州におけるV2Xの開発状況や、車載イーサネットなどの次世代車載ネットワークの導入時期などについて聞いた。
MONOist 車車間通信や路車間通信といったITS(高度道路情報システム)分野の技術開発は、最近まで実証実験ばかりで量産車への導入が進むイメージを抱くことは難しかった。現在、その状況は変わりつつあるのか。
フリーマン氏 米国で行われていたV2Xの公道実証実験が成功裏に終わり、米国政府がその結果を受けてV2Xの本格導入に乗り出した(関連記事:米国運輸省が車車間通信の導入に本腰、搭載義務化も想定)。大統領のバラク・オバマ氏も、導入に積極的な姿勢を示している。
そういった米国政府の施策を受けて、General Motors(GM)が2017年モデル(市場投入時期は2016年内)の「キャデラック」にV2Vモジュールを搭載することを決めた。同モジュールのサプライヤはDelphi Automotive(デルファイ)だが、当社のV2X用通信ICやV2X通信のセキュリティを確保するためのICなどが採用されている。
MONOist NXPの地元になる欧州の状況は。
フリーマン氏 欧州でも公道実証実験が成功した事例が幾つもある。そして、オランダ、ドイツ、オーストリアの3カ国をまたぐV2Xサービス「Cooperative ITS Corridor」が始まろうとしている。現在、3カ国の政府がインフラ整備を行っており、V2Xへの対応はスピードアップしていると言っていいだろう。
欧州におけるV2X開発では、公道実証実験の成功によってV2Xの必要性が理解されてきことで参加企業が増えている。シスコシステムズやシーメンス、米国の信号機メーカーEconolite(エコノライト)、NECなどのように、2012年ごろはあまり見られなかった自動車メーカー以外の企業が参加するようになっている。
V2Xへの取り組みについては、2014年春ごろまでは欧州の方が先行していると感じていた。しかし、この半年程度の間に、一気に米国が先行する勢いになっている。
MONOist V2Xに用いる周波数帯が欧米と異なる日本についてはどのように見ているか。
フリーマン氏 日本でのV2Xに対する取り組みは以前より若干スローダウンしているイメージがある。NXPのV2X用通信ICは、日本の700MHz帯も、欧米の5.9GHz帯もサポートできるので、日本のV2Xの車載機器メーカーがグローバル展開を考えているのであれば検討してほしい。
MONOist GMのV2Vモジュールへの採用事例では、電子認証やICカードのセキュリティコントローラなどで培ったセキュリティ技術が評価されたと聞いている。
フリーマン氏 車載セキュリティというと、ECU(電子制御ユニット)に搭載される車載マイコンに暗号化コアなどを搭載して対応する手法が知られている。自動車の電子化がさらに進展することを考えれば、そういった対策は必要になるだろう。
ただし、車両外部との通信接続を行うV2Xモジュールにこそ強固なセキュリティが必要だ。それもソフトウェアベースではなく、ハードウェアベースのセキュリティソリューションを導入する必要がある。
NXPとしては、V2Xモジュールのセキュリティマイコンとして、ICカード向けなどで利用されている「SmartMX2-P40/P60」などの車載グレード品を開発して提案していきたいと考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.