デジタルツインを実現するCAEの真価

東北大IFSが教える風洞活用の基礎知識風洞実験の現場(前編)(2/2 ページ)

» 2015年02月13日 12時00分 公開
[加藤まどみMONOist]
前のページへ 1|2       

高速領域には弾道飛行装置を使おう

 衝撃波関連施設は、風洞とは逆に「静止している測定部に模型を打ち出す」装置だ。秒速200mの亜音速や、秒速7kmの大気圏突入までの速度に対応する(ただし貸し出しは6kmまで)。「同様の施設の中では大型のサンプルを打ち出せるとともに、打ち出した先のテストセクション(測定部)も大きい。なのでさまざまな計測装置を入れたり、テストセクションの中にさらにテストセクションを置いて水や他の気体などを入れることも可能です」(大林氏)。

 標準の飛翔体は直径15mmまたは51mmの円柱になる。全長は19mで、射出部、加速部、試験部からなる。高速の自由飛行の挙動や、固体への衝突の挙動などを可視化して、ハイスピードカメラによって観察することが可能だ。スペースデブリ用プロテクタや超音速旅客機のソニックブーム、材料解析などの使用例があるそうだ。

(左)飛翔体と破壊されたアルミニウム、(中央)飛翔体の例、(右)弾道飛行装置と衝突関連施設についてお聞かせいただいた東北大学 流体科学研究所 航空宇宙流体工学研究分野 助教で次世代流動実験研究センター 衝撃波関連施設の大谷清伸氏

風洞実験で見落としがちなのは?

 風洞実験をする際に覚えておきたいのが、対象が測定部に入らない大きさの場合、縮小模型を用意する必要があるということだ。一般的には、対象物の流れに垂直な面への投映面積が吹き出し口の10%以内を目安としている。

 サイズを縮小する場合は、レイノルズ数が同じであればサイズが違っても対象物の周りを流れる流体の状態は同じであるという相似則に従って実験する。レイノルズ数、つまり流体の密度、速度および流れ方向の物体長さの積を、粘性係数で割った値が同じであればよいため、物体の大きさを小さくした場合は速度を上げればよいことになる。だが「小型だとその分風速を上げなければならないので、壊れないように実物以上にしっかり強度設計をしなければいけません。また模型を風洞の中に固定するための支持についても考える必要があります」(大林氏)。実験に関するアドバイスはもらえるので心配ないが、模型作成には時間も費用もそれなりに掛かるので、風洞実験が初めての場合は注意しておきたいところだ。

風洞とその利用方法についてお聞かせいただいた大林氏(左)と小西氏(右)

どんな機器で何を測定する?

 風洞支持天秤では対象物を支えるとともに、対象物に掛かる力やモーメントを計測する。3分力天秤では揚力、抗力、縦揺れモーメント、6分力風洞天秤ではこれらに加えて横力、横揺れモーメント、偏揺れモーメントを計測する。

 表面の圧力分布の計測には、対象物の表面に穴を開けてそこから配線を出して測定する。ただこの方法では圧力分布は点でしか得られず、また採用できない対象物も多い。そこでIFSで新しく導入したのが感圧塗料だ。気体が強く吹き付けられると(正確には酸素濃度が上がると)色が変化するため、面での圧力分布が把握可能だ。

 さらに空気中の微小なチリをハイスピードカメラで撮影するPIV(Particle image velocimetry:粒子画像流速測定法)をはじめとする流れの可視化も行う。「風洞試験で得られるデータを測定するための機器は一通り網羅しているのではないでしょうか」(小西氏)というように測定装置も充実している。

感圧塗料を塗っておくと、圧力が高いところ(中央)は色が変わるため、圧力の面内分布が分かる

民間の10分の1の料金で使用可能

 利用時料金は1時間当たり、低乱熱伝達風洞が1万3589円、小型低乱風洞が6817円、弾道飛行装置が6900円だ(税別)。共用利用促進事業担当職員が常駐し、技術的支援や相談を行う。一般の貸し出し用風洞は1日100万円掛かるものもあり、約10分の1と大幅に安く済む。模型作成などのために大学の4軸マシニングセンタや3Dプリンタなども別料金で利用可能だ。

 「年2回説明会を開催していて、委員会で審査した上で実験テーマが選ばれます。ですが急な利用のために月2日程度は枠を確保していて、短期で終わるような実験であれば随時対応が可能です」(小西)という。実験の前段階については「強度計算や模型作成などの準備が必要であれば、相談を受けてから測定まで一月ほどみておいた方がいいでしょう。なので興味があればまずはすぐ相談してみてください」ということだ。風洞実験自体は、製品が受ける力を知る程度であればセットアップや計測などで2日程度、知りたい項目が多い、流れを可視化したいといった場合は1週間見ておくとよいそうだ。

磁力支持天秤の導入計画も進行中

 今までサンプルを支えるために風洞天秤が使われてきたが、この方法には支持する道具が流れに影響を与えてしまうという欠点があった。そこで現在、低乱熱伝達風洞では「磁力支持天秤」の設置を進めている最中だ。

 これは、模型の中に磁石を埋め込み、通路の外に電気コイルを置いて磁力で支える。これによって直接風の影響を受けるような支持具なしに模型を流体中に固定・姿勢制御できるようになる。これは東北大学 次世代流動実験研究センター 共用リエゾン室 客員教授の澤田秀夫氏らが研究開発したもの。導入されれば磁力支持天秤を採用する風洞として世界最大になるそうだ。

 磁力支持天秤によって新しい分野での活用が考えられるという。分かりやすいのがボールだろう。サッカーボールやラグビーボールなど、支持材料があると難しいボール周辺の流れも見ることが可能だ。自動車分野でも利用価値が高いという。横風やカーブなどをはじめ自動車が置かれる状況は多様だ。現状ではランニングベルトを導入した風洞で実験が行われているが、これだけでは実験内容が制限される。磁力で支持することによって動きをコントロールしながらさまざまな状態での実験が可能になるだろうということだ

 風洞実験だけでなくさらに踏み込んだ理解が必要な場合は、CFDによる解析などの相談もできるそうなので、まずは相談してみてほしい。


 後編では、地元である東北地方で、震災復興に関連して風洞を利用した例を紹介する。

関連キーワード

東北大学 | 流体科学 | 研究機関 | 設計


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.