ホンダは2015年度(2016年3月期)中に、日産自動車は2017年度(2018年3月期)に、それぞれFCV車を販売予定だとしています。とりわけホンダは、FCV車の技術力ではトヨタに並んで双璧といわれており、トヨタがFCV特許の公開を決めたことで、ホンダとしてもその事業戦略に大きな見直しを迫られることは必須だといえます。
トヨタは、今後、開放特許のライセンシー(ライセンスを認可された企業)との間で一種の協調関係を築くことになります。つまり多くのアライアンスを構築することになるでしょう。そうすると、ホンダとしては「トヨタのアライアンスに参加するか」あるいは「別のアライアンスを作るか」はたまた「1社でデファクト・スタンダード(業界標準)を追求するか」など、いくつかの選択肢の中で選択していくしか方法がなくなってきます。
トヨタのアライアンスに参加した場合、当然ホンダの特許も開放せざるを得なくなるでしょう。それを拒むのであれば、対抗アライアンスを作るのも1つの手ですが、下手をするとBlu-rayとHD DVDのように、陣営による規格統一の争いとなり、結局インフラ整備に手が回らないという可能性も出てきます。また、1社で標準規格を作るとすれば、仮にそれが成功したとしても、トヨタ・アライアンスとの対抗規格というイメージがつきまといます。これは「新たにFCV車市場を発展させる」というオールジャパンのニーズとも合致しません。
「トヨタとホンダとの協調は可能か」という疑問に対する回答は、ホンダがFCVの事業戦略をガソリン車市場の延長として考えるか、全く異なる新しい市場を作るという発想を持っているか、視点によって異なってくるでしょう。
次回はこの点についてあらためて深掘りして解説してみます(次回に続く)。
福島大学経済学部卒。早稲田大学大学院法学研究科修了(経済法専攻)。日本技術貿易株式会社および米総合法律事務所モリソン・フォースター東京オフィスにてライセンス契約、海外知財法制調査、海外訴訟支援などを担当。2005年から東京理科大学専門職大学院MIP教授。専門は技術標準論と米国特許法。著書に『知財担当者のための実務英文入門』、『標準化ビジネス』(共編著)、『米国知的財産権法』(訳書)、『よくわかる知的財産権問題』、『特許と技術標準』がある。東京大学情報理工学系研究科非常勤講師。
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