量産チームによるレビューの後、デスクに戻った制御設計チームの面々は、打開策を検討するため会議室に集まっていた。
重々しい空気の中で開口一番、山田課長が口火を切った。
まずはみんなで、名誉挽回のために何が不足していたのかを具体化にしていきたいのだけれど。
量産チームから、良かった点や悪かった点をヒアリングして課題を抽出しないといけないと思います。
私たちが考えていたシステムは、量産チームのやりたいことと違っていたのかもしれません。
そ〜っすね。俺も量産のこと知らないし。
分かったわ。量産チームには私が話をつけておくから。
山田課長は、早急にモデルベース開発を使える物にしなければならないことを切々と説明し、気乗りしない量産チームとのミーティングをセッティングしてくれた。
量産チームがミーティングをしてくれるって決まったわよ、京子ちゃん。量産チームのリーダーと日程などを調整してちょうだい。
ミーティングを重ねることで、量産チームの考えるいろんな課題を抽出することができた。
直接話をすることで、初めていろいろな問題があることが分かりました。使う人の身になって環境を作り上げていかなくちゃ、ただの自己満足になってしまうんですね。
そうなんだよね〜。
今度は、この抽出した課題をどう改善するかだ。
検討した改善案を実施することで、量産チームの考える課題を少しずつ解決していくことができた。
しかし一番重要なのは、モデルベース開発のメリットを実感してもらうことだ。例えば、従来の手法では見つけにくかった不具合の発見を容易に行えるテスト環境の構築や、過去に問題となった部分の自動テスト化など、使う人の立場にたった環境へと作り上げていく必要がある。
毎日夜遅くまで作業を進めて、制御開発チームのメンバー全員はへとへとの状態。
どう、調子は?
今のところ順調ですが、それよりも、忙しくてデートをする暇も無いのが問題ですよ〜。
へぇ〜。五十嵐さんって彼女いるんだ。知らなかった!
俺も初耳だ。
冗談に決まってるじゃないですか!
疲れている中でも、終わりが見えてきていることもあって笑いが起こる。
あらためて量産チームに、ヒアリングから抽出した課題に対応した成果などを交えてレビューを実施してもらった。今回は、モデルベース開発についての啓発ではなく、従来手法との違いやメリット/デメリットなど、想定される「できること」「できないこと」を切々と量産チームにプレゼンした。すると、予想以上の高い評価が得られるとともに、設備やツールを移管して実際に試してくれるという約束もしてもらえた。
それ以後は、量産チームにモデルベース開発を試行してもらう度に、さらなる改善を実施した。量産チームも、モデルベース開発のメリットを理解して積極的に協力してくれるようになった。
何とか量産チームとの信頼関係は築けたわね。やっぱり技術者は、できる限り良い仕事がしたいという気持ちが強いんだよね。
量産チームへのレビューは大変だったけれど、私も山田課長の言う技術者の気持ちを実感していた(以下、次回に続く)。
JMAAB/今さら聞けないMBD委員会
JMAABのWebサイト http://jmaab.mathworks.jp/
モデルベース開発(MBD)を発展させるべく、自動車メーカーとサプライヤからなる団体『JMAAB』は13年前(2001年)に生まれました。このJMAABの10周年記念において、「MBDを分かりやすく伝えたい」という目的で発足したのが『いまさら聞けないMBD委員会』です。委員会メンバーが所属する10社でMBDを推進してきたエンジニアが協力し、これまでの経験や将来の夢を伝えるべく推敲を重ね、本連載は完成しました。皆さまのモノづくりの一助となれば幸いです。
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