モデルベース開発に必要なツール購入も完了し、燃費世界一を目指すハイブリッド車「バンビーナ」に搭載する変速機「CVT∞」の設計がついに始まった。そこで重要になるのが、車両全体の設計を統括する自動車メーカーとの仕様のすり合わせ作業である。
モデルベース開発を行うにはさまざまなツールを購入する必要がある。事業担当者にとってツールの選定と予算確保は悩みの種。それは、主人公の小野京子の上司である山田課長にとっても例外ではなかった……(前回の記事へ)。
一応開発に必要なツールはそろったわね。
予算承認のために色々と苦労した山田課長は、モデルベース開発のツールがそろったこともあってかなりほっとした様子だ。
ただ、これらのツールを実際に使いこなして開発を行うチームリーダーの大島さんにとってはこれからが大変だ。
たくさん投資してもらったからなあ。成果出さないと責任問題だな。それじゃ五十嵐、MILSで「CVT∞」のモデルを動かしてくれないか?
大島さんの右腕のような存在の五十嵐さんは、以前所属していた部署で開発したCVT∞のモデルをインストールし、手慣れた手つきでシミュレーションができるよう設定を進めていった。
動くには動きますね。
数時間の後、五十嵐さんがつぶやいた。
私は、そのシミュレーションの様子をのぞき込んだ。
アクセルを急に全開まで踏み込んで10秒待ち、その後急にアクセルペダルから足を離すという、パルス的な動作をさせたときのCVTの動きを再現するものだった。
変速比、速度とも、本物のクルマの動きっぽい数値を出しますね。
それっぽく見えるけど、豊産のカタログに書いてあるエンジンの出力を参考にしただけだから、仮想の適当な動きだよ。
でもCVTの動きは正しいんですよね?
大体は合っていると思うよ。かなり時間をかけて作ったモデルだし。でもHILSを使ってリアルタイムで動かすとなると、やらないといけないことがいっぱいあるね。
五十嵐、頼りにしてるからな。
開発に参加している各サプライヤが、モデルを動かすためのデータを集めてくれるはずよ。後はいろんな条件によってキチンと性能が出る仕様を決められるか、そして何より間違いのない動作を確かめられるか、よね。
恐らくそうでしょう。でも仕様決めって誰が主導してくれるんでしょうか?
CVTそのものの動きはこちらで決めてよいと思うの。ただそれを決めるにしても、どういう要求があるのかは知っておくべきね。これがモデルベース開発の神髄と思えるし。
豊産自動車の鈴木さんに相談してはどうでしょう?
そうね、モデルベース開発環境がそろったことも報告しておきたいし、一度仕様決めの方針もすり合わせたいわよね。
というわけで、豊産自動車とのミーティングを行うことになった。
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