紛争鉱物をめぐる法規制動向と、重要性を増すサプライチェーン管理紛争鉱物(2/2 ページ)

» 2014年10月27日 09時00分 公開
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紛争鉱物への対応

 紛争鉱物をめぐるこれらの規制強化を受け、サプライチェーンを追跡して、自社の製品に紛争鉱物が含まれていないかを調査し、報告することの必要性を認識する企業は増加しています。次にその対応策を紹介いたします。

1.サプライチェーンの調査

 製品の材料調達、サプライヤーの選定や製品成分の把握に関する現行の管理体制、方針、手順を調べ、サプライチェーンにあるリスク、つまり、製品に紛争鉱物が含まれている可能性を明らかにします。その際、自社の管理体制と、OECDのデューディリジェンス・ガイダンスや業界のベスト・プラクティス(優良事例)との間にギャップはないか検証することが望まれます。

2.サプライチェーン管理体制の構築

ギャップ検証の結果に基づき、新しい鉱物調達に関する方針や手順の策定/改訂(サプライヤー向け行動規範も含む)を図ります。また、各製品のサプライチェーンの要チェック事項を洗い出し、対応の優先順位を決定し、鉱物サプライチェーンの透明化を実現する制度を構築します。

3.原産国調査

 先述したサプライチェーン調査によって判明した、紛争鉱物を使用している可能性のある部品や材料のサプライヤーに対し、その原産国や紛争鉱物の使用の有無を尋ねる通知を出します。その際、アンケート形式にして、原材料の原産地のサプライヤー、精錬/精製業者の情報収集を行うのもよいでしょう。また、自社の方針や手順、規範を提示して順守を依頼し、必要に応じて、周知徹底を図る教育・訓練を実施します。

4.外部監査と情報開示

 前述のように、米国上場会社に製品を納品している企業は、信頼に足る報告書を米国上場企業に提出することが求められますが、それに伴い、外部の第三者機関による監査を受けるよう求められる場合もあります。原産国調査と監査により、紛争鉱物の不使用が明らかになった企業は、報告書を作成・提出すると共に、自社のWebサイトでその旨を開示するのが望ましいでしょう。多くの企業がCSR調達への取り組みや活動指針を示して、自社に対する評価の向上とイメージアップを図っています。EICC/GeSIのCFSプログラム※)による監査を利用する企業が多いのは、それが国際的に認められたプログラムであり、自社のCSR調達への取組みをグローバルにアピールできることが影響しているものと考えられます。

5.サプライチェーン管理体制の継続的改善

 ドッド・フランク法では毎年報告書の提出が求められます。よって製品や部品の設計変更や仕入れ先の変更などの発生に備え、常に、紛争鉱物の混入を防止する体制を整えておく必要があります。そのために、サプライヤーに向けたマニュアルの作成や教育・訓練、高リスクサプライヤーへの特別な対応などを含めた継続的改善プログラムを確立することが必要となります。

※)EICC(Electronics Industry Citizenship Coalition)は、統一基準の制定によるサプライチェーンの向上を目指す電子機器メーカーの、GeSI (Global e-Sustainability Initiative)は、持続可能性の推進を目指す情報通信サービス関連企業の業界団体。CFS(Conflict-Free Smelter)プログラムは、両団体が連携して立ち上げた、第三者機関が精錬/精製業者に対し、業務プロセスと紛争鉱物に関する監査を行う制度。紛争鉱物の報告テンプレートおよび紛争に加担していないと認められた精錬/精製業者のリストはウェブサイトで入手可能。

紛争鉱物から始めるサプライチェーン管理

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 先述した紛争鉱物をめぐる規制強化の動きは、サプライチェーンの透明化に対して高まる一般市民の関心と要望が具体化された例の1つにすぎません。このグローバル社会、情報化時代において、多くの企業が、規制の有無にかかわらず、自社のサプライチェーンの状態やリスクをより詳細に把握し、責任あるサプライチェーン管理システムを確立する必要性を認識しています。

 前述のOECDガイダンスは、紛争鉱物に焦点があてられていますが、サプライチェーン管理を行う際のデューデリジェンスの基本が述べられており、ここで言及されている手法は、より幅広い材料調達の適正管理のために応用できます。また、先述した対応策を導入することで、今後、新たに別の材料に対し規制強化の動きがあったとしても、迅速かつ適切に対処できるようになるでしょう。

 さらにこの対応策は、材料やその産出元にかかわらず、あらゆるサプライチェーンに応用可能であり、サプライチェーン管理の基礎として活用することができます。このようなシステムを確立した企業は、自社のサプライチェーンに潜在する問題点や非効率性について客観的な情報を迅速に得ることができます。そしてそれは、生産の柔軟性と採算性を高める的確なCSR調達計画の策定と実施をもたらすでしょう。

 サプライチェーンの透明化と管理は、選択肢の1つではなく、企業評価に直結する必須事項となりつつあります。CSRに根差した効果的なサプライチェーン管理システムの確立が、生産効率と企業収益の向上、ならびに、固定顧客の拡大とブランド力の向上を企業にもたらす時代が到来しようとしています。

筆者プロフィル

小室善伸(こむろ よしのぶ)、星太郎(ほし たろう)、岩本由美子(いわもと ゆみこ) UL Japan

ULグループは、紛争鉱物に関するサプライヤーマネジメント対応ツールを提供するとともに、紛争鉱物対象国周辺を含め120カ国以上に監査員を配置し、EICC、LBMA(ロンドン地金市場協会)、RJCなど各種団体の監査・認証業務を実施している。


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