自動運転技術の開発に日本政府も本腰を入れ始めた。政府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における2014年度の10の対象課題に、自動走行(自動運転)システムが入ったのである。プログラムディレクター(PD)に就任したITS Japan会長の渡邉浩之氏は、「国が関わるR&D(研究開発)の新しい形を見せたい」と意気込む。
最近になってより一層注目を集めている自動運転技術。日本でも、官民を挙げての自動運転技術の開発に向けた取り組みが始まりつつある。
その中核となるのが、政府の総合科学技術・イノベーション会議が統括している戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)である。SIPは、2014年度に10の対象課題を設定しているが、その1つに自動走行(自動運転)システムが入ったのである。
SIPの自動走行システム担当プログラムディレクター(PD)には、自動運転技術と関わりの深いITS(高度道路交通システム)関連団体ITS Japanの会長を務める渡邉浩之氏だ。
ITS Japanは2014年6月11日、東京都内で2014年度の通常総会を開催。総会後のシンポジウムでは、渡邉氏が、SIPの自動走行システム担当プログラムディレクターとしての立場から講演を行った。
SIPにおける自動走行システムの開発は、交通事故死者数の低減が最大の目的となっている。政府が掲げる年間交通事故死者数の目標値は2018年度までに2500人以下だ。
渡邉氏はその前提として、世界全体の主要死亡原因のうち交通事故の割合が急速に増える見込みであること指摘した。「WHOの調査によれば、2004年は年間で120万件だったのが、2030年には2倍の240万件まで増える。かつて日本でも『交通戦争』と呼ばれるほど交通事故死者数が増えた時代があったが、世界全体ではそれと同じ状況になりつつある」(同氏)。
その一方で、国内の年間交通事故死者数を2018年度までに2500人以下に抑え込むのは難しい状況にある。渡邉氏は、「現在の年間交通事故死者数の減少傾向を見ると目標達成は極めて困難な状況だ。しかし、自動走行システムの開発と普及を進めれば、より目標に近づけることは可能だ。そして自動走行システムをグローバル展開することで、世界の交通事故死者数の削減にも貢献できる」と語る。
自動走行システム開発のロードマップは、高速道路向けと一般道向けの2つのプロジェクトに分けて行う。2016年から実証実験を、2017年末からは開発成果を用いたサービスを開始する方針。東京オリンピック・パラリンピック開催後の2020年以降には、「2つのプロジェクトを1つにまとめて普及を図りたい」(同氏)という。
また自動走行システムについても、その機能によって4レベルに分けて定義し、順次開発を進める方針だ。現行の実用化済みの運転支援システムがレベル1。レベル2とレベル3は高度運転支援システムとなる。レベル2は、加速/操舵/制動のうち複数の動作を同時に行う状態で2017年以降の実用化を目指す。レベル3は、加速/操舵/制動の動作全てを自動車が実施し、緊急時にのみドライバーが対応する状態で、実用化時期は2020年代前半となっている。そしてレベル4に当たる完全自動走行システムは、乗員が運転に全く関与する必要がない状態で、2020年代後半に実用化される見込みだ。
渡邉氏は、「自動走行システム開発では、これまであまり評価されてこなかった国が関わるR&D(研究開発)の新しい形を見せられるようにしたい。単にシステムを開発するのではなく、自動車とインフラ、人が三位一体となったマネジメントを行っていく。まずは、東京オリンピック・パラリンピックを一里塚に飛躍させたい」と述べている。
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