パナソニック エコソリューションズ社は農産物の生産効率向上と生産者負担の軽減を図る「アグリ・エンジニアリング事業」に2014年度から参入することを発表した。局所環境制御を実現した「パッシブハウス型農業プラント」を開発し、パナソニックES集合住宅エンジニアリングを通じて販売を進めていく。
パナソニック エコソリューションズ社は2014年4月21日、農産物の生産効率向上と生産者負担の軽減を図る「アグリ・エンジニアリング事業」に2015年3月期(2014年度)から参入することを発表した。局所環境制御を実現した「パッシブハウス型農業プラント」を開発し、パナソニックES集合住宅エンジニアリングを通じて販売を進めていく。
植物工場やスマート農業などの新たな農業および農業法人にとっては「売り先をどこに求めるか」という「出口戦略」が重要になっているが、今回の同社の「アグリ・エンジニアリング事業」ではこれらも含めたソリューションを提供するのが特徴だ(関連記事:野菜の工場生産本格稼働へ――成否のカギは出口戦略と製造マネジメント)。
同社では2013年3月期(2012年度)から大手青果流通会社のケーアイ・フレッシュアクセスと相互の業界での強みを生かした事業モデル検証を行ってきた。今回の新規事業におけるビジネススキームは以下の通りだ。まず、パナソニック エコソリューションズ社が開発したパッシブハウス型農業プラントをパナソニックES集合住宅エンジニアリングが販売・施工し、そこで生産された農産物をケーアイ・フレッシュアクセスが物流および販売をする。
農業生産法人や生産者にとっては、環境制御型ハウスを導入することにより、農産物を安定的に生産することに加え、そこで生産したモノをそのまま流通販売することが可能となる。
今回同社が開発した「パッシブハウス型農業プラント」は、自然光、水、風などの自然エネルギーを直接利用するパッシブ技術により、できるだけ電気のエネルギーに頼らずに、作物周辺の温度、湿度などの環境をバランス良く整えるトータル環境制御システムだ。
一般的な植物工場と異なり、エアコンや暖房機を使用しないためエネルギーコストを抑えた栽培が可能となる。ハウス外の照度、外気温度、ハウス内の温度・湿度を計測して、遮光、送風、散水を行う設備機器を制御。作物の生育ステップごとに機器動作の優先順位を決めて、成長に合わせた制御を行う。また、機器動作の制御は、季節や時間に合わせて自動的に変更して行える。
また、設備機器を最適に配置することで作物周辺のみを集中的に環境制御する「局所フォーカス」を実現し、環境制御を省エネで実現。ハウス内の設備機器は気流解析やサーモグラフィによる測定を行い、最大限の効果が発揮できるように機器選定や配置設計を行う。日照シミュレーションによる周辺環境の影響を考慮したハウスの全体配置設計や、生産者が既に保有している井戸ポンプや電源設備などに合わせた共用設備の設計を提案する。
これらにより、京都で約2年間の実証実験を行い、一般的には難しかった夏を含めて年間を通じたホウレンソウの栽培を実証した。例えば、複数棟で播種時期をずらしながら栽培することで、毎日の出荷が可能となる。また、天候リスクが低減できるため栽培期間のブレが少なく計画が立てやすくなり、出荷期日に合わせた栽培を行えるという。
2014年度は、単棟タイプを10棟1ユニットとして販売を開始。10棟分の価格は約5500万円だという。数年内には大型化を含むハウスのバリエーションを増やしていく予定だという。また、ホウレンソウ以外のバリエーション拡大も検討していくという。2014年度は300棟の導入で売上高16億円を目指す。また2016年度には1000棟、売上高50億円を目指している。
農業の生産性向上は政府の重要な政策の1つとなっている。生産性向上の1つの手段としての注目を集めているのが、製造業としてのノウハウ活用だ(関連記事:CEATEC JAPANに見る農業の未来、「モノづくり」としての農業にご注目!)。2014年4月4日には、トヨタ自動車が米生産農業法人向けの農業IT管理ツールの開発を発表するなど、注目を集めている(関連記事:トヨタが“カイゼン”で農業を支援――農業ITツール「豊作計画」を開発)。
植物工場、ハイテク施設園芸……。製造業のノウハウを活用し、農業が新しく生まれ変わろうとしている。新たな農業のカタチはどう変化していくのでしょうか。
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