第5回国際自動車通信技術展」の基調講演に、トヨタ自動車の常務役員を務める友山茂樹氏が登壇。「トヨタ方式とICTによる自動車販売革命」と題した講演の最後に、友山氏は「トヨタはすし屋になりたい」と語った。この言葉にはどういう意味があるのだろうか。
「第5回国際自動車通信技術展」(2014年3月12〜14日、東京ビッグサイト)の基調講演に、トヨタ自動車常務役員の友山茂樹氏が登壇した。例年、同展示会の基調講演を務めている友山氏は、車載情報機器やテレマティクスといった自動車の通信技術に関わるテーマを選んできた。
今回のテーマは、自動車通信技術そのものから離れて、「トヨタ方式とICTによる自動車販売革命」となった。実は同社の販売店網には、既にトヨタ生産方式が取り入れられており、ICTを活用することでさらに進化を続けているというのである。
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トヨタ自動車の自動車生産に活用されているトヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)。友山氏は、同社の自動車のポータルサイト「GAZOO」やテレマティクスサービス「G-BOOK」を運営するトヨタメディアサービスの社長を務めていることもあって、トヨタ自動車における自動車IT化のけん引役というイメージが強い。しかし、「もともとは、TPSの改善マンとしてキャリアを積んできた」(同氏)と話す通り、かつてはTPSを推進する生産調査室に所属していた。
その生産調査室で友山氏の上司となったのが、現在の社長の豊田章夫氏である。「TPSを販売現場に展開する部隊を創りたい」と考えた豊田氏は、その“部隊”のリーダーとして友山氏を指名。そして1996年、総勢約70人の業務改善支援室が発足した。
業務改善支援室の活動を始めた当初は、ディーラーからの抵抗は大きかったという。「なんでディーラーで生産方式なんだ?」、「生産現場のサルにとやかく言われたくない」……などなど。
しかし、ディーラーの活動を精査したところ、工場と同様に改善すべきプロセスが見つかった。ディーラーは、新車や中古車を販売する「売り」の他に、顧客に納入する車両の点検や整備などの「造り」、顧客のもとに運ぶ「運び」、中古車売却や廃車時に行う「回収」などの活動も行っている。友山氏は、「売りの後の、造り、運び、回収はコストとリードタイムの固まり。ディーラーが強くなるには、これらの改善によって、売りを差別化につなげる必要があった」と語る。
リードタイムは、付加価値時間と滞留時間に分けることができる。付加価値時間は、工場では加工に相当し、技術革新などがなければ短縮は難しい。TPSでは、リードタイムの多くを占める滞留時間(=ムダ)を顕在化し、それを改善することが基本となる。
では、業務改善支援室が活動を始めたころ、ディーラーの滞留時間はどれほどあったのだろうか。車検サービスの例を挙げると、顧客の車検申し込みを受け付けてから、車検を終えて納車するまで合計660分かかっていた。このうち、実際に作業を行っている付加価値時間が100分だけで、残りの560分は作業待ちなどの滞留時間だった。
この滞留時間を短縮するため、TPSの二本柱である「ジャストインタイム(JIT)」と「自働化」に基づいて、さまざまな改善が行われた。例えば、改善前の車検作業では、1人で作業をまかなうため工程数が多く、また工程間での作業員の歩行距離も長いこともあって作業時間は45分もかかっていた。この車検作業に、作業のルールを明確化する「標準作業」の考え方を取り入れて改善したところ、作業員を2人に増員したものの工程数は半分以下になり、作業時間も15分に削減できた。
しかし、滞留時間のほとんどは、車検サービスの中でモノと情報がスムーズに流れないことで発生する待ち時間だ。受け入れ検査待ち、部品準備待ち、完成検査待ち、洗車待ち、精算待ちなど……。TPSの改善によって、これらの待ち時間をなくすことで実現できたのが、最短45分で受け付けから納車を終える「スーパークイック車検」なのだ。
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