トヨタ自動車が考える次世代環境車について、どのような新しい可能性があるのか、同社常務執行役員の友山茂樹氏に聞いた。第1回は、EVなどの次世代環境車とスマートグリッドの関係である。
震災後、毎日のように電力の需給バランスを報じるニュースを目にする。社会が求める自動車の姿は急速に変化しており、これまでのドアツードアで人を運ぶもの、さらにCO2(二酸化炭素)排出量などの環境対応が進んだものに加えて、今後は、災害対応や節電対応などさまざまな役割が必要になっていく。トヨタ自動車 常務執行役員で、事業開発本部、情報事業本部、情報システム本部で本部長を務める友山茂樹氏に、同社が考える次世代環境車の姿を聞いた(図1)。
@IT MONOist(MONOist) 今後、全国各地で電力不足が予想される。トヨタ自動車が電力事業に取り組む機会があるのではないか。
友山氏 発電を担う系統電力事業者になる計画はない。だが、最適な電力の需給に協力しなければならないと考えている。
例えばEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)を家庭で充電しようとすると、家庭の1日の消費電力の30%以上を使ってしまう。もし多数のユーザーが集中して同じ時間帯にEVを充電すると、社会全体の電力のピーク値を高めてしまう可能性がある。1台の次世代環境車と1つの住宅が有機的に作用しあって電力の最適な需給を満たす仕組みを作り上げる必要がある。トヨタ自動車がHEMS(Home Energy Management System)のようなITインフラと次世代環境車を同時に開発しようとしているのはこのような理由があるからだ(図2)。
MONOist ITの世界では多数のサーバをまとめてクラウドに見せる技術がある。トヨタ自動車の次世代環境車とHEMSが何万戸も普及した将来には、HEMS住宅をまとめてクラウド化し、仮想的な電力事業者として成り立つ可能性があるのではないか。
友山氏 ビジネスの観点で見ると、恐らくスマートグリッドは電力網におけるクラウドビジネスになり得る。当社のスマートグリッドに対する取り組みもこのような考え方に準じていて、1人のユーザー、1台の環境車、1戸の電力需要を最適化していき、これがだんだん大きな大きな町に、都市へと発展していく。これがトヨタ流のスマートグリッドの特長だと考えている。
これまではスマートグリッドというと、グリッド(電力網)に対してITを駆使し、電力需給を制御して網自体の信頼性や効率を上げていくという考え方だった。主体は系統電力や大手システム会社だった。当社は環境車をユーザーにうまく使ってもらいたい。当社には環境車を製造して販売する責任がある。ユーザーは社会に貢献しようという気持ちがあって環境車を選ぶのだから、貢献できるような製品を提供しなければならない。
MONOist これまでのスマートグリッドは電力会社から降りてきて構築が進むという絵がよく描かれている。トヨタ自動車の場合は、1人1人のユーザーと1台の車から考えていき、スマートグリッドが出来上がる。つまり、方向が逆だということか。
友山氏 逆の方向になる。次世代環境車は電力の消費に加えて、発電と蓄電、合わせて3つの機能を持つ。これが将来、住宅と互いにつながっていくと非常によいスマートグリッドができるかもしれない。これが電力事業者かというと、言葉通りの意味ではそうではないが、1人1人のユーザーのためにこのような形を実現していかなければならない。
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