信頼性テストを劇的に短縮するSN比の活用とは?タグチメソッドのデータを解析しよう(3)(2/4 ページ)

» 2013年06月24日 07時30分 公開

SN比の活用で信頼性テストを短縮する

SN比へのきっかけ

 前回誤差因子(ノイズ因子)制御因子を、明確に区別することは重要だと指摘しました。コントロールされていない因子によって製品の性能が受ける影響は、モノづくり技術者、特に設計者にとって非常に重要な情報になります。なぜなら、実使用環境では、環境温度や使い方の違いなどコントロールされていない条件によって、製品の機能は大きな影響を受けるからです。場合によってはリコールにつながるトラブルになる可能性もあります。

 メーカーの設計者は、開発設計の段階において、市場で発生する不具合現象を予測し、さらに対策をしておく必要があります。ですから、コントロールできない原因による影響の大きさ、つまり誤差変動Seを見積もることがとても重要なのです。

 このコントロールできる因子とできない因子の影響度の比率が重要であるという考えが、タグチメソッドのSN比の基本思想にあるのです。

 しかし、Seを実験で求めるのは実際にはかなり大変な作業になります。SAやSBなどはコントロールできる設計パラメータの効果ですから、その影響度は容易に見積もれます。しかし誤差変動Seについては、市場の使われ方や環境条件が分からないので予測が困難です。従って誤差因子の影響をうまく見積もる工夫が必要なのです。

ポイント

「コントロールされた因子の影響度」と「コントロールされていない因子の影響度」を分けること。そして、この2つの影響の比率が「SN比」になる

設計の良否判定はどうする?

 SN比の見積もり方を説明する前に、なぜSN比を重要視するのか、その理由をもう少し考えてみましょう。その過程で、SN比の求め方のコツも分かってきますので。

 タグチメソッドでは、設計の役割を次のように考えています。

ポイント

設計とは「コントロールできない因子の影響をコントロールできる因子で制御すること」

 製造現場で何か問題が発生したら、その現場に急行し原因を明らかにして、すぐ対策をすることが可能です。問題解決のための「三現主義」などは、この手法の代表でしょう。

 しかし、いったん市場に出荷されてしまったら、同じような手法は使えません。問題が発生しても現場に急行することもできず、ましてや原因を明らかにすることなどできないからです。だから市場で発生した問題は、解決が長引くのです。

 市場で発生する問題に対しては、別の対策が必要です。すなわち問題が起きないように、製品開発の段階で設計しておくことです。ですから設計とは、開発段階で市場を予測する作業であり、コントロールできない市場因子が原因で発生する問題を、コントロールできる設計パラメータを用いてして対策することなのです。将来起こるかもしれない状況を予測するのですから、設計者は大変なのです。

 この考え方に立てば、すぐれた設計か否かは、次のように判定できるはずです。

ポイント

市場で問題を起こしにくい優れた設計とは、コントロールできない「市場ばらつき」の影響を受けにくい性質を持っている

 これがSN比の基礎にあるからこそ、設計の良否判定が、SN比で可能になるのです。

SN比の意味

 ごく簡単にSN比を表現すれば、コントロールされていない原因による影響の指標です。従って最も簡単なSN比は、コントロールされていない原因によるばらつき「シグマ(σ)」だけを使って、次のように表せます。

ポイント

最も簡単なSN比(望小特性)……1/σ2

 なぜσの逆数かというと、優れた設計でSN比が高くなるようにしたいからです。ばらつきが小さいということは、信頼性(つまりSN比の値)が高いということになりますから。

 望小特性のSN比が、最も単純なSN比です。このままでも十分に有用ですが、不具合を生じる場合もありますから注意が必要です。例えば体重計などの秤(はかり)で考えてみましょう。

 家庭で体重計が置かれている場所はさまざまです。平らで固い床が理想でしょうが、モノが挟まって傾いていたり、柔らかい敷物の上に置いてある可能性もあります。温度や湿度もいろいろ変わるでしょうし、電池の残量も少ないかもしれません。経年劣化で錆びたり汚れたりもするでしょう。

 これらの全ての条件は、体重計の指示値を狂わす原因になります。そして、もちろんこれらをコントロールすることはできません。ですから信頼性の高い体重計には、これらの原因の影響を受けても指示値が変動にくい性質が望まれます。

 しかし指示値が変動しないからといって、壊れた体重計では困ります。指示値が全く変動しなくても使い物になりません。単純な望小のSN比では、このような誤った判断をする可能性もあります。

 要するに本来の機能はきちんと発揮した上で、指示値の変動が少ないことを確認しなければなりません。だから、コントロールされた因子の影響度(機能)とコントロールされていない因子の影響度(ばらつき)の比率が、本来のSN比(信頼性)となるのです。

ポイント

標準的なSN比(望目特性)……m22

m:平均値

σ:ばらつき

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