「戦わずして勝つ」設計アイデアの捻出を助けるTRIZメカ設計者のためのTRIZ的知財戦略(2)(1/2 ページ)

緊急案件が優先されがちな設計業務の中、斬新な発想を得るのは難しい。では、どうしたらそれがかなうのか。そこで、TRIZによるマネジメント法が生きる。

» 2012年11月09日 11時00分 公開

 さて前回は、商品開発設計における「知的財産(知財)の重要性」について、サムスンとアップルの訴訟合戦などを事例に説明しました。

 特許は「相手を攻める道具」にも「自社を守る道具」にもなる「武器」であり、そのためには設計者が考えたアイデアをきちんと戦略的に特許にすることが大切であるとご理解いただけましたでしょうか。

 それを踏まえて、今回は「アイデアをどのように特許化」していくのか? さらには、何を目指して特許化するべきかという知財マネジメントのやり方について解説したいと思います。

 結論から書けば、私たち(当社)が提案している知財マネジメントの方向性は2つです。

 1つは、他社がある問題の解決手段を考える前に、TRIZを使って効果的な知財ポートフォリオを作り上げること(図1)。

図1 知財ポートフォリオ

 もう1つは、秘密管理などを含む戦略的知財マネジメントの具体的な方法です(図2)。

図2 秘密管理

空白地帯を先に抑えろ!

 孫子の兵法に、「百戦して百勝するは善の善なる者にあらず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」(謀攻篇)いう言葉があります。つまり、「無駄な戦いはしないこと」「戦争の目的は何かを考えること」が大切であり、あくまでも政治的な目的に対する1つの手段が戦争であると主張しています。これをビジネス的に解釈すると「相手に戦う気持ちを持たせない」ということでしょうか。

 では、「戦わずして勝つ」とはどういうことなのでしょうか?

 私たちは、敵(競合他社)が気づいていないところをいち早く見つけ、そこで速やかに事業を立ち上げて商品を投入し、参入障壁のための特許網をできるだけ早く構築することだと考えます。その特許網(つまり「特許ポートフォリオ」)が戦略的で緻密であればあるほど、競合他社が入り込みづらくなります。だからそのような特許網を構築するためには、いろいろな視点からのたくさんのアイデアが必要になるのです。

 ところが、特許を出そうにも、そもそもアイデアが得られなければ無理です。

 アイデアは、通常「あるテーマの課題を解決するために考える場合」が多いでしょう。特に設計者の場合、マーケティング部門からある程度の目標スペックの提示を受け、その実現に向けて構造や形状を検討するとき、さまざまなことを考えます。それが基本的には全て「アイデア」だと私は思います。つまり、問題解決もしくは課題実現への仮説が全てアイデアであるという考え方です。

 もちろん、新規事業を立ち上げるために、何でもいいからアイデアを考える場合もあるわけですが、多くの場合は既存事業のコアとなる何らかのシステムが存在し、そのさらなる改善のために新しい構造や仕組みを考える場合の方が多いでしょう。

 従来は、既存システムにおいて出願された特許ポートフォリオのすき間を埋めるべく、アイデアをさらに積み上げて行く方法が主流でした。確かにクロスライセンスやロイヤルティーを優先に考えたときには、その方法が手っ取り早いからです。また、設計という仕事の性格上、どうしても緊急性の高い仕事が優先される場合が多いため、得てして既存システム改良型のアイデアが多くなるという側面もありますね。

 しかし、今日(こんにち)はある意味でピーター・ドラッカー氏が記した「断絶の時代」だと思います。

 IT業界では、クラウドの概念の下で、ユーザーがさらに使いやすくPCからタブレットに移行しつつあります。その中で従来のシステム(PC:パーソナルコンピュータ)の概念内での特許でよいのでしょうか?

 2011年3月11日に起きた東日本大震災による原発事故以降、特に顕著になったエネルギー問題についても、再生可能エネルギーの開発が急務です。そしてそこには「太陽光発電」や「風力発電」だけではなく、それらをコントロールするためのシステムなど、まださまざまな実現可能な技術システムが眠っているように感じるのです。そしてそれらは、社会インフラのみならず自動車などのある意味コモディティー化しつつあった商品にも影響を与えています。自動車についても、これまで日本が得意としてきた「すり合わせ型の開発」から「モジュール化開発」への加速が進んでいるようにも感じます。そうなると、モジュール化に伴う新たな市場や必要な技術システムが生まれるのではないでしょうか。

 つまり論理的に正しい思考の中で改善策を探すという左脳型の開発から、可能性を模索しつつ改善策を探るという右脳型の開発が求められているように感じます。言葉を変えれば、「インテグラルイノベーション」(垂直統合による従来型イノベーション)から「ラジカルイノベーション」(従来の価値を変えるほどの革新)への転換とでも言いましょうか。そのラジカルイノベーションのコアとなるのが、「他社が気付かない視点でのアイデアをどのように創出するか?」ということになります。

 設計開発者も既存システムの問題解決策を考えながらも「こんなことができたらよいのに……」というとても斬新な発想が頭をよぎることは少なくないのではないでしょうか。

 では、従来にない新しい視点を一体どこから見つけてくるのか? しかもできるだけ合理的に……。

空白地帯を埋めるアイデアをTRIZで発想しよう!

 TRIZ(発明的問題解決理論)では、技術システムはその「理想性」が向上する方向に進化するという法則があります。さらには技術システムの進化改善は、その技術システム内に存在する「技術的矛盾」を克服することで実現されるという考え方もあります(図3)。

図3 TRIZでの理想性の考え方

 「理想性の向上」とは、「技術システムの有益な作用が、有害な作用を上回るように進化していく」という考え方です。

 端的に「使う人がより使いやすくなるように技術システムが進化していく」と言ってもよいかもしれません。

 例えば、LPレコード盤は音楽を聴くほど溝の摩耗が進んでしまいます。それがCD(コンパクトディスク)という光ピックアップを利用したシステムに置き換わることで、半永久的にディスクで音楽を楽しむことができるようになりましたね。今後は、さらに小さく大容量化へ向かうことで、ユーザーの使い勝手がさらに向上するでしょう。

 ここで、TRIZ的に思考すると「ディスクは、将来もディスクのまま存在するのだろうか?」という問いかけにつながります。つまり、目的機能(音楽や映像などのデジタルデータを保存すること)に着目してその実現手段を考えるという思考パターンがそれに当たります。このヒントを探るためにTRIZは他分野の知識データベースを活用して解決方法を考えることを勧めています。

 まとめると、理想性の向上の観点で、改善を考えている技術システムに内在する技術的矛盾を明確にして発明原理で解決策を考える方法と、理想性向上の観点で、改善を考えている技術システムの目的機能を他分野の知識をヒントにして考えるという2つの道筋が見えてきました(図4)。

図4 TRIZでのアイデア発想の2つの道筋

 後は、与えられた視点で多くのアイデアを、時間をかけて集中的に考え抜くことが大切です。ここで楽をするための方法はありません。

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