例えば、今回のアップルとサムスンの訴訟合戦について考えたとき、少なくともアップルのiPhoneの方が先に市場に出たように記憶しています。当然今回の構造やデータ処理に関しての特許網を構築していたはずです。そこに真正面から参入するのではなく、スマートフォンという商品に求められる機能、すなわち「小型の通話機能付きPC」という視点で構造を考えると、必ずしもiPhone構造が全てだとはならないと思うのです。例えば、「完全タッチパネル方式にする」のではなく「折り畳み式のキーボードを残す」(他次元移行原理)や、「画面上にデフォルトでアイコンを整列させる」のではなく「必要に応じて画面のどこかから飛び出てくる」(ダイナミック性原理、もしくは高速実行原理)など、iPhoneとは違った構造アイデアが出てきたと思うのです。
もちろん四角形だけではなく、もっと手にフィットする形状(ダイナミック性原理、薄膜利用原理)もあるように感じます。要は、競合の商品をリバースエンジニアリングするだけではなく、顧客視点での新しい商品を発想するためにTRIZを使うということになります。
そして、これらのアイデアを知財(特許)の視点から整理し、パテントポートフォリオを作成します。ここでは、やはり知財の専門家が必要になります。
具体的には、アイデアの新規性と進歩性の視点や、自社の保有技術と先行性の視点などさまざまな視点からアイデアの選別をして、アイデア同士を結合させたり、さらに発展させた新しいアイデアを付け加えたりしながら、これまでになかった視点のアイデアをコアにして新しい技術システムでの新しいパテントポートフォリオを作成していきます。
この取り組みの中で幾つかの大きな枠組みとしての技術システムが浮かび上がってきますから、次は「それらを公開するのか非公開のままで行くのか?」、さらには「どのレベルでの秘密管理をするのか」を決めていくことになります(図5)。
特許は、出願後20年間しか効力を発揮しません。そういう意味での出願のタイミングを計ることも重要でしょう。時代を先取りすぎて失効してしまい、他社の好きなように使われてはどうしようもありませんから。
また、特許にすると確かに権利は行使できますが、他社にその技術を公開することにもつながり、いわば他社へ開発のヒントを与えることにもつながります。こういうところは、自社の知財担当者、開発設計者とともに、社外の知財スペシャリストの助言を仰ぐことをお勧めします。
なぜなら、これからの技術開発競争を眺めたときに、まさに「生き馬の目を抜く」世界であることを実感し、自社だけの内向きの視点だけではなく社外の動向もにらみながら権利化したり秘密管理していくことが求められていると考えるからです。
以上を一連のフローチャートに表したものを図6に示します。
さて、続いて重要になるのは、これまでちらほらと出てきた「秘密情報管理」についてです。秘密管理には、これまで話をしてきた「秘密技術」と「営業秘密」の2つが存在します。
これらの詳細は、知財に関する各種専門書に譲るとして、基本的には「秘密技術」の管理については、性悪説の立場でその対策を考えておくことが大事でしょう。例えば技術者に向けた秘密情報についての教育と、情報アクセスレベルの管理、および各種資料のマル秘(Confidential)スタンプの明示などが考えられます。
これは「営業秘密」に関しても同様でしょう。そして、これまで以上に入社時と退社時の秘密情報管理に関する契約事項の厳格化が進むことも予想されます。そういう意味では、私物を仕事で使用することの制限が厳しくなることもあるでしょう。実際にサムスンの厳格な管理が、今後の日本企業で取り入れられつつあることは、例えばデンソーなどの例が示していますね。
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以上、TRIZを活用して知財をうまくマネジメントする方法について述べてみました。概要だけではなかなか実際のイメージがわかないことが多いかもしれません。不明な点や問い合わせなどありましたら、私に遠慮なくご連絡ください。
いずれにしても、訴訟は起きます。というか、“起こせます”し、“起こされます”。
要は、「その訴訟に対するリスクマネジメントをどうするのか?」という点に尽きると思います。リスクを前にして立ち尽くすのではなく、TRIZを武器にして豊富なアイデアを生み出して積極的に特許攻勢を掛けることが、最善の訴訟対策なのです。
今回の記事が皆さんのこれからの知財マネジメントの一助になれば望外の喜びです(終わり)。
TRIZで発想したアイデアやコンセプトは、商品化されたり特許化されたりで企業に収益をもたらします。しかし、その商品が「ヒット」するためには、顧客に感動や驚きを与えることが重要な要素になってきます。顧客に驚きや感動を与えるには、顧客がまだ気づいていないニーズを見つけられればよいわけです。そのための手法「コンセプトマイニング」とTRIZを組み合わせた新しい商品企画のプロセスについて、新連載で解説します。
桑原 正浩(くわはら まさひろ)
熊本県生まれ。1985年鹿児島大学卒業。KYB(カヤバ工業)株式会社、オムロン株式会社で研究開発や商品開発に勤務後、技術問題解決コンサルタントとして独立。現在は、株式会社アイデア、コンサルティングセンター長。実務型TRIZコンサルタントとして、国内外企業の技術開発テーマの創造的問題解決のコンサルティングに携わる一方、大学や産業振興財団の中小企業支援育成事業、日科技連の次世代TQM構築PJなどでも活躍中。「TRIZで日本の製造業を元気にする」が合言葉。
著作物に「効率的に発明する:ロジカルアイデア発想法TRIZ」(SMBC出版)、「使えるTRIZ」(日刊工業新聞社「機械設計」連載)、韓国では「TRIZによる論理的問題解決:アイデアレシピ」(韓国能率協会出版)がある。ブログ「TRIZコンサルの発明的日常閑話」
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