対するトヨタのTS030 HYBRIDは、新開発の排気量3.4リットルのV8ガソリンエンジンで後輪を駆動し、モーターによる回生も後輪で行うハイブリッド機構を採用した。面白いことに、トヨタはアウディとは反対に後輪で回生する方が有利と考えたのだ。
トヨタのモータースポーツ子会社であるToyota Motorsport社長の木下美明氏は、「一見すると、前輪で回生する方が有利に思えますが、経験上、減速用のギアを追加しないと回生の効率はあまり良くありません。元々、フロントまわりにはハイブリッド機構を搭載するスペースが限られる上に、ギアを搭載して重量増加も招くとなると、ハイブリッド機構によるメリットを打ち消しかねません。そこでわれわれは、既存の変速機を生かして、後輪で回生する方式を選択しました。レギュレーションでモーターによる加速が許される全域で、500kJのブーストを行うことに成功しました」と述べる。
トヨタが選んだ、駆動輪で回生とブーストを行う機構では、低速域から最大500kJのブーストが可能だ。「回生3秒、加速2秒」(木下氏)が、トヨタのハイブリッド機構の基本性能である。モーターの出力も220kW以上と、アウディの2個分よりさらに大きい。駆動輪をアシストするために、トヨタは低速域からフル加速できる。
当然、「プリウス」のような市販車に搭載されているハイブリッド機構とは仕組みが異なる。プリウスのハイブリッド機構は、シリーズ・パラレル方式だが、TS030 HYBRIDに搭載されているのは、エンジンとモーターが別々に駆動するパラレル方式である。設計上は、アウディのe-tron クワトロと同じ位置であるフロントの車軸上にもモーターの搭載が可能だが、リアの車軸にモーターを1個搭載して回生とブーストを行っていた。
トヨタの主眼は、エネルギーの効率的な活用だ。減速時にブレーキによって熱に変わるエネルギーをモーターで回生し、いったんキャパシタに蓄電してから、加速時にモーターを動かすエネルギーとして利用する。ただし、市販車と違って、レースでは3秒間で時速300kmから時速100kmまで急激に減速するため、蓄電デバイスとして電池ではなく、瞬時にエネルギーをやりとりできるキャパシタを採用した。
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