出場チーム数は、応募のあった44チームの中から事前選考された21チーム。これが3チームずつ、7つのリーグに分かれて予選を戦う。各リーグの1位(7チーム)とワイルドカード(2位の中から成績が最も良かった1チーム)の計8チームが決勝トーナメントに行く方式だ。なお選考時にシード校を決めており、強豪同士が予選リーグで当たらないよう配慮されている。
優勝したのは東京大学(以下、東大)の「RoboTech」チーム。東大チームは昨年に続いての2連覇となったが、昨年もそうだったように、全試合で課題達成という、ダントツの強さを見せつけた。
東大チームが他チームに比べてすごいと思うのは、44秒というベストタイムの速さはもちろんだが、その安定感だ。予選での2試合目こそ、ケーブルのトラブルでリトライがあり、1分46秒かかってしまったが、その他の試合は全て44秒〜46秒という手堅さ。予選を経て調子を上げていくチームが多い中、第1試合から高い完成度を実現していたことは高く評価したい。
筆者は、トークンを入れるまでの第1区間(手動ロボのみ)、コレクターロボを自動ロボに乗せるまでの第2区間(手動ロボ+自動ロボ)、橋を渡ってアイランドに到着するまでの第3区間(手動ロボ+自動ロボ)、課題達成までの第4区間(手動ロボ+コレクターロボ)に分けてタイムを見てみたのだが、東大チームはこのいずれも速い。特に、難易度が高い第2と第4の区間の速さが目立つ。
また筆者が注目したのは、スタッフの冷静な判断だ。第2区間で、自動ロボは2つあるカゴのうち1つを選んで運搬する必要があるが、タイム的には手前に置いてあるカゴの方が有利。準々決勝までの3試合では、対戦相手との実力差が大きかったために、手前のカゴを確実に取れていたが、準決勝で対戦した長岡技術科学大学とは第1区間が互角で、自動ロボのスタートがほぼ同時。
しかし東大は、無理に手前のカゴを狙いに行かず、奥のカゴを選択。これによりわずかなロスはあるが、もし手前のカゴに行って取り損ね、リトライにでもなれば10秒ほどの大きなロスになってしまう。結果的に、得意の第2区間で逆転に成功しており、そのまま逃げ切った。長岡技術科学大学はこの試合、今までのベストタイムで来ており、54秒程度でクリアできるペースだった。一発のミスで負ける可能性もあっただけに、リスクを最小限に抑えた試合運びはいかにも王者らしかった。
準決勝で惜しくも東大に敗れた長岡技術科学大学「長岡技科大吉」チームだが、このチームは他と少し戦略が違っていたのが面白かった。
自動ロボはスタートして、共通ゾーンからカゴを取ったら、それを手動ロボのゾーンのどこに置いても構わない。カゴは3キロ近くあるため、多くのチームは上り下りのある橋を渡る前に手動ロボのゾーンに置いていたが、同チームはカゴとコレクターロボを乗せたまま橋を渡ってアイランドへ。しかも非常に速く、この第3区間は東大よりも2〜3秒上回る好タイムを見せていた。
予選こそトラブルも多かったが、準々決勝では59秒と初めて1分を切り、東大戦ではさらにタイムを向上させていただけに残念。ただ、東大チームをヒヤリとさせたほとんど唯一のチームであるということは、価値のある敗戦と言えるだろう。
東大や長岡技術科学大学と同じく、全て課題達成で勝ち進んできた金沢工業大学「先駆」チームは、決勝戦で東大に敗退。このチームも1分を切る力があったが、コレクターロボが旋回できるアームを持っていないため、上段の饅頭をカゴに落とすときは手動ロボ側で狙いを定める必要があった。第4区間が東大よりもちょっと遅かったのは惜しい点。
対して、東大や長岡技術科学大学のコレクターロボは、前後への伸展と左右への旋回が可能なアームを備えており、上段の饅頭をカゴに入れるとき、手動ロボは、コレクターロボをほとんど持ち上げるだけでいい。自動化できる部分は全て自動化し、手動ロボの作業を単純化することで、タイムの短縮と同時に人間のミスもなくしている。
もう1つ、注目したいのは三重大学「M3RC」チームだ。このチームの手動ロボは、県内にある鈴鹿サーキットにちなんで、レーシングカーのようなスタイル。東大チームのように、前後左右どちらにも進めるオムニホイールを使うチームが多い中、大きな車輪の独特のデザインが光った。同チームはデザイン賞も受賞。
このチーム、予選では1分10秒、1分8秒と安定して課題を達成していたが、準々決勝で狙ったカゴを相手に先に取られ、自動ロボがカゴを移動させないままアイランドに向かってしまうという痛恨のミス。相手の大阪工業大学は予選で一度も課題を達成しておらず、すぐにリトライしても十分逆転は可能だったのだが、慌ててしまったのは痛かった。ただ、部員わずか3人ながらここまで戦えるロボットを作ったことは見事だ。
優勝した東大チームは、2012年8月19日に開催されるABUロボコン香港大会に招待される。
国内で圧勝したとはいえ、海外は強豪揃い。昨年の東大チームですらベスト8止まりだった。チームメンバーも「世界では今日のタイムでは優勝できない」と危機感を持っており、開催までにどのくらいタイムを短縮できるかがカギとなる。ちなみに練習では41秒という記録もあるそうだが、「目標タイムは30秒」とのことで、さらなるタイム削減に挑むようだ。
今回で第11回となるABUロボコンだが、日本チームは2005年以来、優勝から遠ざかっている。しかし前回2005年に優勝したのは東大チームで、開催場所も同じく中国だった。験を担ぐわけではないが、昨年の悔しさをバネに、ぜひ優勝を狙ってほしい。
なお、NHK大学ロボコン2012の模様は、2012年7月1日(日)午後5時から、NHK総合テレビで放送される予定。
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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