設計者がモデリングしながらできる樹脂流動解析オートデスクのシミュレーション新製品

CADでモデルを修正しながら、樹脂流動解析もできるツールが登場。この他、流体解析ツールや、構造・機構解析ツールの新機能も紹介していく。オートデスクの「明日の製品」についても取り上げた。

» 2012年04月05日 17時22分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

 オートデスクは、2012年3月28日、シミュレーションツール製品群「Autodesk Simulation」を発表し、順次出荷開始している。新製品は、主に以下の3つ。今回は、従来の同社Suite製品をリニューアルし、Autodesk Simulationブランドとしてリリースした。

  • 樹脂流動解析ツール「Autodesk Simulation Moldflow 2013」
  • 構造解析ツール「Autodesk Simulation Mechanical 2013」
  • 流体解析ツール「Autodesk Simulation CFD 2013」

 なお、上記のツールは全て、同社のビジュアライゼーションツール「Autodesk Showcase」と連動する。例えば、樹脂流動解析したヒケの現われた形状データをShowcaseに取り込んでレンダリングで着色したり、成形不良が意匠へ及ぼす影響を直感的に把握したりといった使い方が可能だ。

 同社は、それぞれの製品に関する記者向け説明会を2012年3月29日に開催。以降では、そこで紹介された製品概要をお伝えしていく。

Autodesk Simulation Moldflow 2013

 「Autodesk Simulation Moldflow 2013」は従来、「Adviser」「Insight」の2クラスの製品があったが、今回新たなクラスが加わった。

 意匠設計や設計初期の段階(「アップフロント」「上流」とよく表現される)で活用するツールである「Autodesk Simulation DFM 2013」(以下、DFM)だ。「DFM」は、「Design For Manufacturing」の略。3次元CADでモデリングしながら、その背後で簡易な樹脂流動解析を走らせる機能を備えている。こちらは、同社の「Autodesk Inventor」だけではなく、「SolidWorks」(ソリッドワークス)と「Pro/ENGINEER(最新版は「Creo」)」(PTC)でも使える。

 3次元CADのメニューからDFMを立ち上げておくと、3次元モデル形状が修正されるごとに、樹脂流動解析を開始。「製造性」(作れるのか)、「コスト」(お金は幾らかかるか)、「環境」(製造の際のCO2排出など)の3項目で、リアルタイムに評価する。この3項目の指標は、画面右下に常に常駐し、解析の最中にそれぞれの指標で問題があれば、アラートを表示する。アラートは、「安全」(緑)、「注意」(黄)、「注意」(赤)と、信号のように3色に分けて表示する(以下動画で、オペレーション紹介)。

アラート表示:左から「製造性」「コスト」「環境」

 「Autodesk Simulation Moldflow Adviser」(後述)のサブスクリプションユーザーは、同社のサブスクリプションセンターよりダウンロードして利用可能だ。

Autodesk Vaultに対応

 Autodesk Simulation Moldflowは、同社のデータ管理ツール「Autodesk Vault」と連携する。解析データと3次元モデルデータ、設計に付随する書類などを紐(ひも)付けて管理することが可能だ。

Autodesk Vaultとの連携の概要

上位版「Autodesk Simulation Moldflow Insight」

 「Autodesk Simulation Moldflow Insight」は、解析エキスパート向け製品で、以下のクラスの製品に分かれている。

  • Standard:充填(じゅうてん)、保圧、熱可塑/熱硬化、DOE
  • Premium:金型冷却、そり変形、繊維配向
  • Ultimate:2層成形、ガスアシスト、光学特性

 新製品では、結晶化(結晶の並びが均一な材料。PPやPOMなど)樹脂に特化した解析機能を実装し、計算精度をより向上させた。旧バージョンでは結晶化材料における解析精度が課題だった(結晶化樹脂に関しては、以下資料に)。

参考:結晶化樹脂とは?

 この機能で解析できるパラメータは、下記の通り。

  • 「結晶化:結晶配向係数」
  • 「結晶化:相対結晶化度」
  • 「結晶化:平均相対結晶化度」
  • 「結晶化:機械的特性E11」
  • 「結晶化:機械的特性E22」
  • 「結晶化:最終相対結晶化度」

標準版「Autodesk Simulation Moldflow Adviser」

 「Autodesk Simulation Moldflow Adviser」は、設計者向けの樹脂流動解析ツールだ。こちらはさらに、以下のクラスの製品に分かれている。

  • Standard:単品充填
  • Premium:多数個・セット取り
  • Ultimate:保圧、金型冷却、そり変形

Autodesk Simulation Mechanical 2013

 構造解析ツールの「Autodesk Simulation Mechanical 2013」は、同社の新カーネル(ジオメトリエンジン)「ASM(Autodesk Shape Manager)」を搭載。形状をインポートした際の品質を向上させ、処理スピードも高めたという。旧バージョンでは、複雑な形状をインポートした際、データの品質が悪かったためにメッシュが切れないということもあった。同社によれば、このカーネルを採用したことで、インポートにおけるエラーは激減したということだ。またメッシングの計算は並列化(マルチコア)に対応しているので、作業速度を向上できる。

 このツールは、以下の2製品に分かれる。

  • 「Autodesk Simulation Mechanical」:線形接触・線形接触解析、疲労解析、落下テスト、非線形解析(材料非線形、MES)
  • 「Autodesk Simulation Multiphysics」:マルチフィジックス(構造・熱・流体・電場)

 Autodesk Simulation Mechanicalでは、非線形解析を強化した。MESは「Mechanical Event Simulation」の略で、非線形な機構解析における時間ステップ(動作時間を任意の感覚でコマ割りする)を設定する際の作業を効率化できるという。例えば落下解析では、時間ステップの設定で、「地面に衝突した瞬間に細かくする」などのノウハウがユーザーに必要とされた。機構解析に慣れないユーザーは、全ての動作に対し細かい時間ステップを設定してしまい、処理に時間がかかってしまうということもあった。このMESでは非線形機構解析において、ケースに応じて時間ステップ設定を自動コントロールできる。

時間ステップ設定の概要

 「ギア同士のかみ合わせ」などペアで接触させる設定では、「接触選択グループ」機能を付加し、操作をより簡易にしたということだ。

接触選択グループの概要

Autodesk Simulation CFD 2013

 流体解析ツール「Autodesk Simulation CFD 2013」*の主な新機能は、以下の2つ。

*オートデスクが2011年4月に買収完了したBlue Ridge Numericsの流体解析ツール旧「CFdesign」の技術を踏襲し、Autodeskファミリー製品としてリニューアルした製品である(バージョン2012より)

  • ソリューション アダプティブメッシュ
  • 熱交換器モデル、エロージョンモデル(物理モデル)

 「ソリューション アダプティブメッシュ」は、流速や圧力、温度などの変化が大きい(勾配が大きい)箇所を自動で検知し、そこに対し細やかなメッシュを切り、それ以外の箇所には適当な粗さのメッシュを切るといった自動処理が可能だ。旧製品では、ユーザー自身がそのような判断をする必要があり、ときには試行錯誤で設定することもあって、その作業には非常に時間がかかっていたという。

 「熱交換器モデル」は、複雑な形状をした熱交換器を簡易モデル化し、かつ熱交換器用の検証パラメータも備える。

熱交換器モデル

 「エロージョンモデル」は、バルブや船のスクリューでよく見られる「エロージョン」(壊食:2相流で起こる気泡などにより部品に摩耗や破壊を起こす)を解析する物理モデルだ。

エロージョンモデル

 このような、特定分野の作業を簡略化する物理モデルは、ユーザーの要望次第で今後も増やしていくということだ。

Autodesk labの「明日の製品」

 オートデスクの「Autodesk lab」では、ユーザーに向け「明日の製品」(研究段階の製品)を公開している。公開されているツールは、無償でダウンロードし試すことが可能だ。ダイレクトモデリングツール「Autodesk Inventor Fusion」も、かつて、ここで公開されていた。

 現在公開しているもので興味深いのは、DFMと似たコンセプトの流体解析ツール「Project Falcon」。こちらは、デザイナー向けの3次元CGツール「Alias」の中から実行できる簡易な空力(エアロダイナミクス)解析だ(以下の動画)。デザイナーが作成した3次元モデルのモックを配置し、バーチャルな風洞で検証する。風速や方向の変化に合わせて、リアルタイムに流速や風圧がアップデートされる。

 ほかの3次元CADのデータは、スタンドアロン版で扱うことが可能ということだ。この場合、データ形式はSTL。

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