こうした「フレキシブル生産」に対応できたのは、「コモンアーキテクチャ」という考え方を導入したからでもある。例えばエンジンの構造部品の1つ、シリンダーブロックの冷却通路方式に「クローズドデッキ」と「オープンデッキ」の2方式があったのを後者に、同様に「ベアリングビーム」と「ロアブロック」の2方式も後者にそれぞれ統一化した。設計の初期段階で構造と工程をワンセットで考え、共通化しなければならない製品のハードポイントを最小化することで搬送基準や加工基準も統一化でき、1つのラインで複数の製品が流せるようになったのである。
「スカイアクティブエンジン」の開発でも、設計図を描く前から開発と生産部門が相互に協力し合い、模造紙に計画図の切り抜きを貼り付け、開発上と生産上の両面で変動部分と固定部分を一望できるようにした。製造現場が守るべきハードポイントは維持しながらも開発上実現させたい機能は同時に押さえていくためであった。この結果、図面作成には時間がかかったものの、初回の設計でシリンダーブロックのダイキャスト型を起こすことまで決められるなど、下流の試作プロセスなどでの工数が減った。
車体構造に大きな影響を与えるエンジンルームの設計でも、これまでは車種ごとに最適設計していたため、ハーネスの位置がばらばらになり、それによって工程も車種ごとに変わっていたが、レイアウト設計を全ての車種で共通化することで工程も単一化された。
新しい車体構造の開発でも「コモンアーキテクチャ」と「フレキシブル生産」の発想を組み合わせた。「スカイアクティブボディー」と呼ばれる、軽量・高剛性で衝突安全機能を高めた車体では、BクラスからCDクラスの車までまとめて企画し、SUVでもセダンでも同じストラクチャーを使うようにした。フレームワークのコンセプトや板厚は全て固定し、溶接のつなぎ方の構造も共通化した。前述したようにストラクチャーが一緒なら実験の解析データ―も共有化できるからだ。一方で、Bクラスの車には搭載しない部分もあらかじめ検討する。
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