恒例の組込み総合技術展「Embedded Technology(ET)」が今年も11月中旬にパシフィコ横浜で開催された。最新技術が一堂に会するET、今回はその中でも最先端のソリューションに注目し、次世代の組み込み製品開発のヒントを探りたい。
最新の組み込みソリューションで例年注目を集めるインテル。今回は“エンターテインメント系”を前面に押し出しており、インテルプロセッサの適用分野が広がっている様を実感することができた。
ひときわ目を引いたのは、国内初で2011年夏から稼働するセガの裸眼3D対応アーケードゲーム「Let's GO ISLAND 3D」だ。Pentiumプロセッサ E2160/1.8GHz、Windows Embedded Standard 2009をプラットフォームとするセガの汎用アーケードゲーム基板「RINGEDGE」を採用している。裸眼3Dはパララックスバリア方式(視差バリア方式)で視点数は5つ。「裸眼3Dはメガネ方式に比べて画像の“飛び出し感”が少ない分、音響などで臨場感を補っている」(説明員)という。
また、コルグが新発売したPCベースのソフトウェアシンセサイザー「KRONOS」の演奏がブース内で行われていた。KRONOSは9つの音源を持ち、30Gバイト容量のSSDにより音源サンプリングデータを省略なしで登録可能。8型タッチパネル液晶モニターを備える。この複雑な計算処理をコントロールしているのがインテルのAtom D510(マザーボードはD510MO)だ。Atomプロセッサの中でも高性能なデスクトップPC向けのデュアルコア、動作周波数は1.66GHz。ハイパースレッディングに対応して最大4スレッドまで同時処理できる。
この他、インテルブースでは大学発ベンチャーのサイバーダインが開発した「ロボットスーツ HAL(Hybrid Assistive Limb)」も目を引いた。HALはその名前の通り、人が装着するサイボーグ型ロボット。歩行訓練補助など医療・福祉分野での利用を想定している。脳が筋肉に神経信号を伝える際に生まれる生体電位を読み取り、手足の動きを予測して補助する。この制御ユニットに搭載されているのがAtomプロセッサだ。
Atomプロセッサもプロユースのソフトウェアシンセサイザーからロボットまで適用範囲が確実に広がっていることが伺えた。
アームブースでは、アーム自身とパートナー各社がARMソリューションを展示していた。
アーム自身のソリューションとしては「big.LITTLE処理」が注目されていた。Cortex-A7とCortex-A15をキャッシュコヒーレンシ対応インターコネクトで結んだ異種マルチプコアプロセッサSoC。処理負荷が軽いタスクは電力効率の高いCortex-A7が、重いタスクは高性能なCortex-A15が担い、性能と低消費電力のバランスを図るものだ。「モバイル機器での採用を狙っている。big.LITTLE処理のソフトウェアモデルとしては、マルチコアプロセサ向けで既存の低消費電力化技術、DVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling)が応用できるので適用しやすいはず」(説明員)。
パートナー各社からは、Cortex-Mシリーズを採用したMCU向けの提案が盛んだった。例えば、台湾Nuvoton TechnologyはCortex-M0を採用した「NuMicro Mini51 シリーズ」を訴求していた。コストとローパワーを追求した同シリーズは、最小限の回路構成でFlashメモリ4〜16Kバイト、SDRAMは2Kバイト。「量産価格は0.43米ドルで8ビット品のコストで32ビット品の性能が得られる。主に家電製品のスレーブ用MCUとして量が出ている」(説明員)と、ARMコアのMCU市場への浸透を伺わせた。
富士通セミコンダクターは、富士通ブース内でCortex-M3を採用した「FM3ファミリ」を前面でアピール。「標準品ではきめ細かなモデル展開が重要と考え、2011年末までに200品種、2012年末までに500品種以上のモデルを投入する」(説明員)。FM3ファミリには、High Performance、Basic、Low Power、Ultra Low Leak Powerの4グループがあり、「共通して駆動電源電圧がワイドレンジ(1.8/2.7〜5.5V)。FA機器や家電製品のインバータ制御に適している」(同)という。
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日本マイクロソフトのブースでは、パートナー各社が製品やソリューションを競い合っていた。
Windows Embedded採用製品で関心を集めていたのは、「Windows Embedded Handheld 6.5」を搭載したカシオ計算機の携帯型コミュニケーション端末「スマートコミュニケーター IT-300」だ。ファーストリテーリングがハンディー端末として採用し、世界のユニクロ(約1000店舗、スタッフ約4万人)へ配備を進めているという。IT-300は、バーコードスキャナ内蔵や耐衝撃性などの業務用ハンディー端末の特性を維持しつつ、マルチタッチ操作対応の大画面液晶を備える。業務用ハンディー端末の“スマート化”を先駆けた製品となりそうだ。
ソリューション提案で目を引いたのは、Windowsの強みを生かしたネットワークビデオソリューションだ。
例えば、ユニダックスが展示していたネットワーク監視カメラシステム「XProtect」(開発元:デンマークMilestone)はIPベース監視カメラの業界標準規格であるONVIF(Open Network Video Interface Forum)、PSIA(Physical Security Interoperability Alliance)に対応しているため、マルチベンダーのカメラ、ビデオサーバを使えるのが特長だ。また、管理サーバはWindows Server環境により高い拡張性を実現しており、接続するカメラの台数は無制限(Enterprise版以上)。「国内では1200台、海外では1万台のカメラを接続している例がある」(説明員)という。
また、リコーの遠隔映像コミュニケーション用ポータブル端末「ユニファイド・コミュニケーション・システム P3000」は、カメラ、マイク、スピーカー、有線・無線LANを内蔵したA4サイズの端末。これにクラウド型のビデオ会議支援サービスを組み合わせて提供する。どこにいてもネットワーク環境さえあれば、P3000にモニターやPC、データプロジェクターを接続してビデオ会議に参加できる。標準で20拠点接続、9拠点同時表示に対応する。「プロジェクターのようにビデオ会議システムも据え置き型から使い勝手の良いモバイル型に移行すると見ている」(説明員)。
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