タブレットというビッグバンは、業界全体にも大きなインパクトを与えました。まず、メーカーはPC事業部を縮小あるいは解体してタブレット事業部を立ち上げ、こぞってAndroid搭載タブレットの製造を始めました。その結果、タブレットというデバイスそのものがまだ黎明期にある中で、日進月歩のAndroid搭載タブレットは次々に新しい製品が投入されました。しかし、それでもiPadが持つ高い完成度にはなかなか近づけることができず、iTunes StoreやiPodといった既存サービス・製品もiPadへの強力な呼び水となり、iPadを追い落とすには遠く及ばない状況が続いています。
また、タブレットが成熟していく過程で、タブレットがいわゆるポストPCにはならないということが分かってきました。そのため大規模な買い替え需要を見込めず、PCの売れ行きは落ちる一方、タブレットの売れ行きは上がらないという現象となり、リーマン・ショックなどで体力を失っているメーカーには手痛い打撃となりました。加えて、インドで格安のタブレットが発売されるなど、値段なりの品質感は否めないものの、まさに価格破壊が起こってしまい、耐え切れずにタブレットから撤退するメーカーも出始めています。
さらに、Android陣営の頭を悩ませているのが訴訟の問題です。Android搭載タブレット最大手であるSamsungは、Appleが起こしている特許侵害に関する裁判で負け続け、ドイツ、オランダ、オーストラリアという先進国において「Galaxy Tab 10.1」の販売を停止させられてしまいました。
特許問題はとどまるところを知らず、2011年8月16日にはGoogleがMotorola Mobilityを125億ドルで買収すると報じられ世界を驚かせました。この買収は特許・知財の強化が主たる目的であったとされますが、この巨額の買い物はGoogleといえども社運を賭けた決断であったことは間違いありません。OHAのメンバーからは買収を歓迎するコメントが寄せられましたが、韓国政府などはこれをよしとしませんでした。すなわち、自国の重要な産業がアメリカの一企業に依存し翻弄されることはまかりならないということで、SamsungとLGに対抗OSの開発を求めたのです。
Android自身の事件ではありませんが、スティーブ・ジョブズの訃報、Nokiaのシェア急落、Sony Ericssonの合併解消など、2011年は本当に大変な一年でした。
しかし、Androidとして最後に大きなニュースがあります。待ちに待った「Android 4.0(ICS:IceCreamSandwich)」のソースコードが公開されたのです(図3)。
ソースコードを公開しなくなったことについては、タブレットを指向したAndroid 3.x(Honeycomb)が開発を急がされたため、公開できる状態を作れなかったというのが1つの説ですが、時を同じくして、Androidの互換性問題が持ち上がっていました。これは、Androidユーザーは2つの大きな問題を抱えているというもので、1つは「自分が買ったアプリケーションが自分の端末で動かないかもしれない」という不安、そして、「Androidのバージョンが上がっても自分の端末にはファームウェアアップデートがなされないかもしれない」という不安でした。
これを重く見たGoogleは、互換性が高くファームウェアアップデートが保証された端末を作るための新しいアライアンスを作りました。しかし、それは裏を返すと、互換性はその輪の中でしか保証されないということでもありました。Googleは“オープン”ということを追い風にしてAndroidを発展させてきましたが、ここにきてAppleのようにクローズドな方向に転換してしまうのかという臆測もなされました。しかし、ICSでAndroid 2.xとAndroid 3.xを統合し、オープンソースを復活させるという約束は果たされ、タブレットに振り回され続けたAndroidの混乱は、ソースツリーの統合をもって一応の収束を見たのです。
次回以降、Androidにまつわる最近のトピックスをご紹介していきます。ご期待ください! (次回に続く)
金山二郎(かなやまじろう)氏
株式会社イーフロー 技術本部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidプログラムの開発で活用している。
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