中国に押しつぶされる米国の太陽電池業界、次は日本か世界の再生可能エネルギー(3)(1/2 ページ)

太陽電池を製造する米国企業7社がダンピングを理由に中国企業を提訴した。太陽電池産業は成長市場のはずだ。米国では何が起こっているのか。中国企業と米国企業の強みは。NRELの分析に基づき、状況を紹介する。

» 2011年10月21日 10時40分 公開
[畑陽一郎@IT MONOist]

 米国内の太陽電池メーカー7社は、2011年10月18日(現地時間)、中国製の太陽光発電システムが不当廉売(ダンピング)状態にあり、米国の雇用を脅かしているとして米商務省と国際貿易委員会(ITC)に提訴した。2011年に入り、太陽電池関連の米国企業倒産が相次いでいる。米国の太陽電池産業に何が起こっているのだろうか(連載の前回へ)。

 今回の提訴の主体となっているのはドイツSolarWorldの米国法人、SolarWorld USAだ。同社の主張はこうだ。中国企業には生産コスト面での優位性がないにもかかわらず、米国市場のシェア拡大*1)のため、太陽電池モジュールを不当に安く販売しているという。これが可能なのは中国政府から違法な補助を受けているためだと主張した。中国政府の支援は税額控除の他、融資面での優遇、土地や電力の安価な提供など幅広いという。

*1)同社によれば、2008〜2010年の期間中、中国からの結晶Si(シリコン)太陽電池(セルとモジュール)の輸入量は300%以上増加し、2011年だけで輸入額は16億米ドル以上にのぼるという。

 米政府に求めている対策は、中国製結晶Si太陽電池に対する100%以上の反ダンピング関税と、中国政府の補助に対する相殺関税だ。

海外メーカーの進出をなぜ防ぐのか

 日本は石油ショック以降、石油への依存度を下げることがエネルギー政策の根本にあった。米国もオバマ大統領の演説にあるように、輸入の石油依存度を今後10年間で33%引き下げようとしている(関連記事:米国が目指すEVの普及、100万台構想は実現できるのか(前編))。その重要な手段が風力や太陽光、太陽熱といった再生可能エネルギーだ。

 エネルギーを自給することや、エネルギーの地産地消を効率的に進めることを国の政策として捉えると、太陽電池の開発や製造、輸送、設置、システム運用などのノウハウは自国内で完結していることが望ましい。

 例えば、石油購入代金のうち数兆円を、太陽電池導入によりゼロにするという目標があるとしよう。太陽光発電システム全体を輸入しても実現できるが、それよりも、自国内である程度の部分を開発、製造しつつ、ノウハウを蓄積し、他国に輸出する方が得策だ。石油を代替しようとして投資した金額を幾分なりとも回収できる。もちろん、個々の国内企業にとっては成長分野で勝ち残るという目標がある。

どうしたら中国企業に対抗できるのか

 中国は世界最大の太陽電池製造拠点である。2010年時点で全世界のマーケットシェアの50%以上を占めるほどだ(関連記事:本気を出した中国、風力に次いで太陽光でも飛躍)。世界シェア1位、2位、4位、5位を中国企業が占めており、生産した太陽電池のほとんどを海外に輸出している。一方、米国企業の世界シェアは過去5年間で9%から6%に低下した。

 中国の企業集団の圧力を直接はねつけることは難しいだろう。米国が中国企業の猛威から逃れる方法は幾つかある。まずは、今回のような提訴だ。関税障壁で流入を防ぐ。

 政策面での対策もある。太陽電池の市場拡大は、グリッドパリティに達していない現在、補助金政策や固定価格買い取り制度(FIT:Feed-In Tariff)の後押しを受けたものだ、補助金やFITの条件を操作し、最終消費者の便益を高めつつ、国産メーカーを優遇できる。

 このような手法は不当なものではない。例えば太陽光発電システムを設置しただけで補助金を支給する政策を採ると、設置直後にシステムを撤去する業者が現れる。これでは意味がない。一定期間稼働することを条件付けなければならない。

 同様にFITにおいても、システム稼働年数の保証や出力の保証、製造時のエネルギー投入量やCO2(二酸化炭素)のLCA(life cycle assessment)を条件に加えればよい。「安かろう悪かろう」を排除することだ。

 このような手法が有効なのは米国企業が一部でも競争優位にある場合だけだ。米国企業は衰退しているのだろうか、それともいまだ優位なのだろうか。実は優位にある(図1)。

米国における太陽電池関連の輸出入 図1 米国における太陽電池関連の輸出入(2010年) 今回問題になった太陽電池モジュール(PV MODULES)の輸入量は、23億9800万米ドルと巨額である。しかしながら米国企業はSi(シリコン)材料や、資本設備を合計56億3000万米ドル輸出している。太陽電池関連の総輸入量は37億5000万米ドルなので、差し引き18億8000万米ドルの貿易黒字である。なお、図1では輸出入の関係だけを示しているため、米国市場内で製造、販売された7社の製品は図中に示されていない。出典:GTM Research

 貿易上の数値では、米国企業が優位にあるように見える。しかし、どのようにして、中国の低コスト戦略に打ち勝っているのだろうか。

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