さて、No.17 工学院大学に行きましょう。このチームは昨年、一昨年とスポーツマンシップ賞を受賞している実力派です。
インタビューに答えてくれたのはチームリーダーの長澤拓さん。昨年のマシンに多くのアップデートを加えたとのこと。エンジンはCBR600RR、ミッドシップのオーソドックスなレイアウトはそのままに、エッジが立っていて一昔前のF1といった雰囲気のカウル(塗装もきれいに仕上がっています)の新規製作、トレッドの拡大をしながらタイヤ幅を1インチ増やし、トップクラスのコーナリング性能にさらに磨きを掛けました。シート形状、ペダルのレイアウトや操作感などのドライバーインタフェースも改良し、0コンマ台のタイム短縮を図りましたが、動的審査のエンデュランス(ジムカーナ的コースを22km走行)中に横Gで動いたドライバーの脚でイグニッションスイッチの配線を切ってしまうというトラブルも出て、細部のレイアウト設計の難しさを再認識したそうです。
エンジンでは吸気の流速を上げパワーアップを図りましたが、その検証にフル加速時の車両位置をGPSで把握し、加速度からパワーを換算するという手法を使ったとのこと。コストにも気を配り、静的審査のコスト審査でも6位の好成績でした。
先のエンデュランス時でのトラブルが響き、総合成績は32位と昨年より順位を落としてしまいましたが、「失敗は成功への大いなる糧(かて)」。来年 第10回大会に期待しましょう!
編集担当小林より:昨年のレポートで取り上げた“人間型”の座席は、今年の車両ではもう少し座り心地を整えて登場! 相変わらず“肉肉しい”感じでした。道行く学生に「工学院の車両、ヤバい」と言わしめたカウルの塗装の美しさも健在! ちなみに長澤さんは、学内の別プロジェクトのリーダーも掛け持ちしています。タフですね。
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前編のしめくくりは昨年の優勝チームNo.1の大阪大学です。チームリーダーの久堀拓人さん(以下K)にお話を伺いました。
S:今年のマシンのコンセプトは?
K:昨年の走行データを分析したら、コーナーのアプローチでドライバーのスキル差が出てしまうことが分かりました。そこでブレーキとステアリングを「誰にでも乗りやすい」方向にセッティングしました。
あと、今年は新たなチャレンジを多くしました。ドライサンプや可変吸気システム、カーボンアーム、CFRPの多用、アップライトに使用するアルミパーツのNC加工などですが、新しい機構を採用して満足するのではなく、「この新機構でコンマ何秒のラップタイム短縮に寄与する」「耐久性は何%向上する」など、新機構の妥当性と言うか、マシンのパフォーマンスへの寄与度を考慮しながら進めました。
S:素晴らしい! 自動車メーカーでもそこまで綿密にやってなかったりして(笑) エンジンはカワサキの「Ninja600」ですよね。もともとこのエンジンには可変吸気システムは付いていないから、それを自作で付けたんですね。どんなシステム?
K:そこは担当さん(「吸気=Intake」でIさんとします)に説明してもらいますね。
I:「吸気管の長さが変わる」システムなんですが、外側の吸気管ともいえるサージタンク内に四気筒分の小さな吸気管(いわゆるファンネルですね:関解説)があり、その長さをラジコンモデル用のサーボモーターを使って変化させるんです。ちょっと動かしてみましょうか。
S:なるほど〜。いまはマニュアルスイッチで動かしてもらったけど、当然これはスロットル開度やエンジン回転数などを演算させて最適な長さにコントロールするんだよね? 低速域ではファンネルを伸ばし、高速域では短く。
I:その通りです。
S:素晴らしい! これカワサキに売り込めばいいじゃん(笑) 今年はもう走ったのかな?
(再び)K:ブレーキがセッティング不足で効きの立ち上がりが遅くなってしまいました。本来ならばもう少しタイムが伸ばせたかな……(エンデュランスの順位は5位)まぁ、無事完走できたので良かったです。
S:最初に話してくれた「乗りやすさの向上」は達成されたのかな?
K:そこの評価がなかなか難しいですね。ドライバーの感じたことをどう定量的に評価するのか。また、ドライバーがどう表現するのか。
S:そのあたりの感性を磨くことはすごく大事なんだよね。私はいま、ドイツ車の4ドアセダンと20年前のホンダビートという軽のオープンカーを愛用しているんだけど、「どちらが楽しいか」って聞かれれば当然ビートの方が面白い。ダイレクトなハンドリングとマニュアルミッションを駆使して高回転をキープして「車を走らせる」という感覚は最高。最近の国産車にも積極的に試乗しているのだけど、満足なハンドリングの車は数少ないというのが現状。皆さんのようにドライビングの感性を磨いて、それを設計に落とす。そういう人材にどんどん日本の自動車メーカーに行って欲しいなぁ。
K:「扱いやすさ」をどう評価するのかという段階に行っているチームはまだまだ少ないと思います。その評価自体が難しいのですが、先の新機構と同様、「ここをこういじったから、ここのフィーリングがこう良くなる」といった形で理論づけてマシンに落とし込んで行きたいです。
S:「味付け」的要素だよね。そこをカリスマ料理人のように目分量でやるのではなく「塩1g、酒20cc」という形でしっかりレシピに落とし込みたいよね。
K:はい。そしてこの開発方針が後輩に受け継がれるようにしなければいけないんです。
さすが前回優勝校(カーNo.1がその証)、本当にレベルが高いです。フレームワークが非常に美しく、見ただけで軽量かつ高剛性だということが分かります。スペースフレームで剛性を保とうとすると、どうしてもエンジンの脱着がしにくくなりますが、エンジンを強度メンバとして利用するレイアウトにしてその点をクリア、リーンフォースメント(補強材)としてカーボンプレートを有効に使っていたり、私は興味津々でこのマシンのフレームをしばらく見つめていました。
結果は全ての審査で10位以内に入り、総合3位。残念ながら連続優勝とはなりませんでしたが、チームリーダー、そしてメンバーたちの熱き心は後輩に継承され、常に上位争いをするチームであり続けることは間違いないと感じました。
編集担当小林より:カワサキ・グリーンが映える昨年の王者、大阪大ですが、第1回から出場し続け、ここまで上り詰めるのには、多々の課題と苦労があったといいます。昨年は、車好きの浪速男子 山本照久さんが大会後の大阪大チームを取材してくれました。
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さて、後編は引き続き幾つかのチームへのインタビュー、デザインファイナルの様子、そして大会全体について紹介しますね。車、バイク大好きの方もそうでない方もお楽しみに!
関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表
専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなどの大規模アセンブリを完全一人完結組み立てを行い、品質/生産性/作業者のモチベーション向上を実現した。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、実務改善に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。
現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡理工科大学講師、早稲田大学大学院講師、豊橋技術科学大学講師として教鞭をにぎる。
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