さまざまな企業がチームを組んで開発する3次元入力デバイスの新技術。その設計・製作では3次元データ活用が欠かせない!
2011年7月下旬、YouTubeに紹介映像がアップされるや、2週間ほどで15万回以上再生され、海外のニュースサイトTechCrunch、The Washington Postでも報じられた、3次元CGキャラクターのポーズ・モーションキャプチャー「QUMA」(クーマ)。この開発中の製品は、大きく3つの構成要素に分けることができる。「電子基板」「ソフトウェア」、そして「外装」である。この3要素のうち、「外装」プラスチック部品の作られ方について、数回に分け、また関係者のインタビューなども織り交ぜて書いていこうと思う。
QUMAは、規格およびその技術の名称であり、YouTubeで紹介されたヒト型のQUMAに製品名はまだない。なので、ひとまずこの「ヒト型のQUMA」を単に「QUMA」として表記していくことにする。
さてこのヒト型QUMA、発案し開発の主体となっているのは茨城県つくば市にあるネットーワークセキュリティを専門とする企業のソフトイーサとビビアンである。その名の通りソフトウェア企業であるソフトイーサは、QUMAハードウェアの開発において幾つかの企業とバーチャルなチームを組み、協力体制の中で開発を進めてきた。
ヒト型QUMAの構造を設計し、関節の自由度が高く、それでいて魅力的な姿を与えたのは、フィギュア原型師の浅井真紀氏である。浅井氏は、関節を持ち自由なポーズを取らせることができる、アクション・フィギュアという分野において、世界最高の経験と見識を持つだけでなく、独自の造形テイストによって世界中にファンを持つ原型師の中でも作家性の際立つ人物である。電子基板の量産を担っているのは、岩島電子工業。そして、浅井氏の造形意図をくみ取って製造が可能な形状データにモデリングしたのは、OUTSTYLE。OUTSTYLEがまとめ上げたデザイン面を生産が可能な詳細設計データとし、同時に金型の設計・製造を行っているのがコーチ精機である。最後に、これらの作家と企業が集い、バーチャルなチームを構成することを実現したのが、業界団体 3Dデータを活用する会 3D-GAN(スリーディギャン)であることを付け加えておきたい。
このヒト型QUMAは、その設計のプロセスにおいて大変凝った作られ方をしている。それが設計・デザインにおいての凝り方のみならず、設計・デザインの意図を生産につなげる手法としても、非常に手の込んだ手法が用いられているのだ。そのプロセスは、3次元データをフルに活用することで最大限に効率化され、10年ほど前であれば、自動車か大手家電業界などのよく整備され、統一された設計環境でなければ実現し得なかった手法を、このプロジェクト以前では一度も仕事を共にしたことのないバーチャルなチームにおいて苦もなく使いこなしている。
大まかなプロセスを紹介すると、以下の通りとなる。
現在、クルマ以外の製品を設計・デザインする場合は、まず工業デザインのアイデアとコンセプトを表現するデザイン画が作成される。これは、絵画的なものである場合もあるし、極めて製図的なものであることもある。しかし、共通しているのは、このデザイン画の後は手造りの原型が作られることは非常に稀(まれ)で、デザイン画を基に3次元CADによるモデリングの工程に入るのが普通だ。クルマやオートバイの場合は人の手によってクレイ(粘土)モデルが必ず作られるのだが、クルマやオートバイ以外でこういった人の手による原型製作を行うことはほとんどないと言っていい。そういった意味でもこのQUMAの特殊性が表れている。
ではなぜ、クルマではなく、価格帯もサイズも材料も家電やデジタル製品にほど近いQUMAは、クルマ的手法である手造りの原型を要したのか? 次回はここからお話ししよう。
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