品質向上はトヨタが“反面教師”――“企業風土に見合った経営”を徹底する現代自動車井上久男の「ある視点」(3)(2/3 ページ)

» 2011年06月22日 10時08分 公開
[井上久男,@IT MONOist]

現代自動車の長いラインが示すのは明確な脱・トヨタ方式

 現代自動車の急成長の最も大きな理由は、品質の向上である。米調査会社JDパワー・アンド・アソシエイツによると、米国で新車を購入して最初の90日間での100台当たりの不具合の指摘数は1998年にはトヨタが162件で現代自動車が269件だったのが、2006年に初めて逆転してトヨタの106件に対して現代自動車は102件。2007〜8年に2年連続でトヨタが逆転したが、2009年は再び現代自動車が逆転している。

 米国での動力系統の品質保証でも「ソナタ」は「10年で10万マイル」であり、「カムリ」や「アコード」の「5年で6万マイル」と比較しても遜色ない。

 その品質力向上の大きなの1つ要因は、トヨタ生産方式(TPS)をむやみに取り入れることを止めたことにある。

 TPS用語である「カンバン」「カイゼン」は英語にもなり、TPSを見習う企業は多い。現代自動車も1990年代まではTPSを積極的に導入したが、2000年代に入って方針転換した。

 雇用慣行や労使関係など基本条件がトヨタと違う中で同じ手法をそのまま導入しても、トヨタと同様の成果が出せないと判断されたためだ。むしろ、TPSをそのまま導入しても現場が混乱するだけで、それが生産性の低下につながると見られたのだ。

 これが、自社の企業風土にあった生産手法を、自らの頭で考えて作り出そうという動きにつながった。かつてハーバードビジネススクールのケント・ボウエン教授らが発表した「トヨタ生産方式の遺伝子を探る」(注)という論文では、TPSを導入してもトヨタ以上の成果が出せない組織が多いことに注目し、その原因が人材育成など「人」にあることなどが触れられている。この論文の着眼点の良さは、トヨタをまねしてもトヨタ以上の業績を上げられないのはなぜかということを追求・解明しようとしている部分にある。


注:Steven Spear, H. Kent Bowen, ‘Decoding the DNA of Toyota Production System’, Harvard Business Review, 9-10, 1999


 筆者はトヨタを長年取材してきた経験があるが、TPSの強みは、労使協調や長期雇用をベースにした人材育成による「心構え」「やる気」の醸成といったような「暗黙知」にあるといえる。いわばトヨタの企業風土の中で長年改良を繰り返して培われてきた「ソフトウェア」のようなものがTPSの強みの源泉にあるのだ。「カンバン」など、表から見えるシステム・方法論がTPSの強みではない。例えば、チームワークを大切して、就業後にサービス産業で居残ってまでも同じ班内で話し合いをしながら生産性向上のための提案活動を行うようなことがTPSの強みだ。

 だからTPSは「性善説」で成り立つ方式と呼ばれることがある。こうしたプロセスを通じ、作業者は熟練度を深め、同時に複数の作業をこなすことができる「多能工」が育つ。生産ラインで自分の頭で判断し、行動の取れる技能者のことでもある。TPSとは、トヨタが長年培ってきたものの上に成り立つ「経営哲学」の1つでもある。

 では現代自動車が2000年代前半から取り入れ始めた新しい生産システムとはどのようなものなのか。

 ポイントが2点ある。それは

  1. 熟練度合いの高い多能工に依存しない方式
  2. モジュール化の推進

である。

 1. の多能工を使わない方式については、人に依存しないモノづくりともいえ、現代自動車の雇用慣行と密接に結び付いている。

 現代自動車では労使対立によるストがよく発生し、現場の従業員の賃金制度も時間給で、熟練度合いを高めても待遇(資格)が向上しない雇用システムとされる。こうした雇用条件の中では、作業者が自助努力しながら問題解決していく意欲は生まれないばかりか、意欲の低い作業者にカイゼン活動を任せればかえって現場は混乱しかねない。

 TPSでは現場の作業者が問題を発見し、それを解決していき、標準作業の中で品質を作り込んでいくことを旨としているが、現代自動車では標準作業と品質対策を分離した考えの生産方式を導入したともいえる。

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