品質向上はトヨタが“反面教師”――“企業風土に見合った経営”を徹底する現代自動車井上久男の「ある視点」(3)(3/3 ページ)

» 2011年06月22日 10時08分 公開
[井上久男,@IT MONOist]
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多能工を育成しないことの利点を追求する現代自動車

 現代自動車では作業者はカイゼンをしなくてよく、指示された単純な仕事をこなすだけだ。

 その代り、カイゼン専門の担当者を工程外に置き、そこにエリート人材を起用した。このために、「リモートコントロール方式」も採用した。1つの生産ラインに300台近いビデオカメラを設置し、不具合が発生すると、カイゼン担当者がリプレイして作業をチェックし、問題の原因を突き詰めていく手法だ。

 世界中の工場のカメラがインターネットを介して韓国の本社に接続され、全体状況を本社でも把握して対応を指示できるシステムになっているという。

 さらに、自動車産業では工程数を減らし生産ラインの長さを短くすることが効率性を高めていくための常識的な手法と位置付けられているが、現代自動車はこれも否定した。逆にできるだけ工程を細分化して工程数を増やすことで仕事を単純化し、1人の作業者が複雑な仕事をしなくて済むようにした。現代自動車の1ラインでの工程数は日本メーカーの約2倍の300工程近くあるという。

 仕事を極力単純化することで、言葉が通じにくく、しかも初心者の外国人労働者の指導もしやすくなった。これが新興国など海外工場の生産性を高めることにもつながったとみられる。こうした手法は、現代自動車がグローバル化を推進する上での大きな「武器」となったようだ。

 大胆な自動化も推進した。筆者は、中国や南米の日系メーカーの自動車工場の車体溶接の現場で火花が散る中、作業者が防護服や防護眼鏡を付けて大きな溶接機械を抱えながら仕事をしているのを何度も見たことがある。

 溶接ロボットを導入するよりも人を使う方がコストは安いからだが、現代自動車は新興国でも溶接の自動化率を100%近くにまで高め、人力に頼らない生産システムを徹底させている。この手法だと設備投資額が高くなり、原価償却が負担になるリスクがあるが、徹底したマーケティングによる販売増で稼働率を高めることで対応している。

現代モービスの狙い

 一方、2. の「モジュール化」の積極的な推進では、現代自動車の工場で取り付ける部品点数を減らすことを狙っている。部品のモジュール化とは、ここでは下請けの部品メーカーである程度組み上げて完成車メーカーに納入することを指している。下請けの賃金水準は現代自動車のほぼ半分であり、コスト的にメリットが大きい。

 このモジュール化戦略を担うのが現代自動車のグループ企業である現代モービスだ。

 かつては社名を現代精工と呼び、三菱自動車工業から「パジェロ」の技術供与を受け、同型の車を生産していたこともあったが、現在はこのビジネスから撤退し、部品事業に注力している。

 現代モービスは2020年までに現在の2倍の30兆ウォンの売上高を目指している。さらに、現在は売上高に占める現代自動車向けの割合が9割であるものを、5割程度にまで落として他社売りも強化したい考えだ。他社への販売を強化して生産量を増やすことで、部品のさらなるコスト低減を狙っている。

 こうした現代自動車の取り組みは、TPSの方がいいとか悪いとかという次元の話で見るべきではないと筆者は感じる。現代自動車は自分の頭を使って自社の風土に合ったモノづくりとは何かを追求する経営に切り替えたのであり、当たり前のことをやったにすぎないということに注視すべきではないか。

 むしろ他社の手法をそのまま導入して業績を上げようと考える方が、虫がいいし、上がると考える経営者がいるとすれば、これは経営者失格だろう。

 しかし、日本の企業経営者にはこうした考えの人が少なからずいる。他社が成果主義の賃金制度を導入すれば、経営コンサルタントの指導を受けるだけでまねして飛び付き、ろくな評価システムも整っていないまま成果主義を導入したために、適正な人事考課が行われず、社内で意欲の低下を招く事態を引き起こしたようなケースも、自分の頭で考えない経営の弊害といえるだろう。こうした経営手法をとる経営者が増えると、結局経営コンサルタント会社だけがもうかる。企業は赤字で社員の給料やボーナスは減っても、その企業を指導している経営コンサルタントの年収は1億円近くあるといったケースも散見される。そして、コンサルタントがその会社での指導経験などをベースにベストセラーを出版し、講演などで荒稼ぎしている姿は、何か本末転倒のような気がする。

販売抑制に走る理由は身の丈を超えない“戦略”

 話は少しそれてしまったが、現代自動車はトヨタから学ぶことを捨てたわけではない。いま、現代自動車がトヨタから最も学ぼうとしていることは、「急拡大し過ぎていかに品質管理が甘くなったか」という点にある。急激な販売増によってトヨタが身の丈を超えた経営をしてしまい、大量のリコール問題につながった点を、現代自動車は自社の急拡大とダブらせて危機感を持っている。

 このため、2012年に達成する予定の「世界販売700万台」を品質維持ができる当面の上限と設定している模様だ。最近では、価格を値上げすることで、急激な販売増の抑制を図っている。また、「ブランド成長」を合言葉に、ドイツの「ベンツ」のブランド戦略の研究にも力を入れているという。


筆者紹介

井上久男(いのうえ ひさお)

Webサイト:http://www.inoue-hisao.net/

フリージャーナリスト。1964年生まれ。九州大卒。元朝日新聞経済部記者。2004年から独立してフリーになり、自動車産業など製造業を中心に取材。最近は農業改革や大学改革などについてもマネジメントの視点で取材している。文藝春秋や東洋経済新報社、講談社などの各種媒体で執筆。著書には『トヨタ愚直なる人づくり』、『トヨタ・ショック』(共編著)、『農協との30年戦争』(編集取材執筆協力)がある。



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