最終回では、AUTOSAR導入に向けた準備と効果的な導入の進め方について、そのヒントを紹介する。
連載第1回「What is “AUTOSAR”/AUTOSARとは?」では、AUTOSARに関して、その背景および課題、技術面や開発の流れの概要、そして、現状の導入形態について述べた。また、前回の連載第2回「Facts on AUTOSAR/AUTOSAR導入の現実」では、一体、AUTOSARを導入するとはどういうことなのか? に関して、そのヒントを紹介した。
前回、最後に述べたように、AUTOSARの目指すものが実現されるということは、われわれエンジニアにとって、「早く家に帰れるようになる」ということを意味するはずである。しかし、AUTOSARは、このような意味を持ちながらも、本質的には“土台”という地味な存在であるため、導入の結果として、分かりやすい即時の効果を期待することは難しい上に、「適切とは限らない理解や期待」(あえて強くいえば、「誤った理解や過大な期待」)や、それに伴う「準備の不足」「掛かる手間の見積もり誤り」によって、かえって、多くの困難を招いてしまう可能性もある。
実際にどのような準備が必要なのだろうか? そして、そこではどのようなことが効果的なのだろうか?
本連載の最終回である今回は、これらを考える上でのヒントを述べる。もちろん、“万能な解”は存在せず、具体的な対処は個別の事情を考慮しながら決めていくしかないのだが、本稿を参考にAUTOSAR導入をより効率的に進めていただければ幸いである。
AUTOSARに対する理解を深める上で、AUTOSARの仕様書に目を通すことは必須である。しかし、必ずしも仕様書の記載内容のすべてが、どの立場でも必要となるわけではない。
例えば、ECUの原価や開発工数の見積もりを行う人にとっては、各BSWのAPI仕様よりも、マイコンの選択において「MCAL(Microcontroller Abstraction Layer:ハードウェア依存の各種ドライバBSW)」が開発期間やソフトウェア関連費用に及ぼす影響の方が、はるかに重要である。
しかし、仕様書を読むだけで、こういったことを自力で理解していくのは容易なことではない。適切なトレーニングが開講されているのであれば、それらをうまく活用することが、近道となる(筆者が所属するベクターでもAUTOSARトレーニングを行っている)。
また、前回「実際にAUTOSARを導入してみて、初めて見えてくること」の1つとして紹介した、「すべてを自社で決めることができるとは限らない/自社でやるべきことが分かりにくい」については、仕様書を読むだけでは解決が難しいため、他社の動向を広く知ることが重要である。なお、その調査の際には、マーケティング面でのアグレッシブさが会社により大きく違うことについても、十分に注意されたい(ベクターは、この面では非常に慎重な立場を取っている)。
AUTOSARの導入に当たっては、さまざまな道筋が考えられる。もちろん、これまでに構築してきた「当たり前に利用できるもの(既存の設計資産や開発体系)」の枠組みとはまったく別に、“全面的なAUTOSARの導入”のために、新たに構築し直すような進め方も選択肢の1つであろう。
しかし、その再構築の間、構築の対象を必要とするようなものの開発は、できない、あるいは、開発ができたとしても手戻りが発生しやすくなるなどの不利な点もある。また、前回述べたように、これまで構築してきた「当たり前に利用できるもの」の存在は大きなものであるため、その再構築に要する期間が予想よりも長くなってしまいやすく、関与する開発者を量産開発に投入できない期間も延びてしまう(当然ながら、導入検討作業そのものに対する、社内からの評価への悪影響も予想される)。
さらには、運用開始後に得られる「実際にAUTOSARを導入してみて、初めて見えてくること」も考慮に入れる必要があるため、再構築が完了したとしても、さらなる手直しが必要となる可能性は高い。さらに、仕様そのものの改定は当面続くため、その反映も随時必要となる。
このように、最初から「全面的なAUTOSARの導入の完全な姿」を目指して再構築を行ってしまうと、成果が得られるまでに多大な時間がかかってしまう可能性が高い。しかし、利用できるものは利用し、部分的に再構築していくような進め方であれば、何らかの成果が得られるまでの時間を相対的に短くできる。また、連載第1回で述べたように、現状のAUTOSARの導入形態の主流は、“必ずしもAUTOSARの全面的な導入ではない”という事実もある。
これらのことから、最初から完成度の高いものを新たに構築しようとするよりも、利用できるものは利用して、“部分的にでもまずは運用してみる”ことの方が、現時点(2011年前半の時点)では、より確実に成果を上げられるのではないかと考えられる。
また、部分的な運用といっても、さまざまな可能性がある。ここでも「すべてを自社で決めることができるとは限らない/自社でやるべきことが分かりにくい」ということが重要な鍵の1つとなるため、他社の動向の把握も大変重要である。
詳細はここでは割愛するが、部分的な運用としての代表例を以下に紹介する。
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