企業が守るべき資産は設計意図に宿る ― Mathcad Primeものづくり支援ソフトウェア製品レポート(7)(1/2 ページ)

企業が守るべき資産は個々の設計データではなく設計意図の表現の中に。Mathcadのリニューアルから見えるPLM像を知る

» 2011年01月07日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

 2011年1月3日のMathcad Prime 1.0のリリースを目前に控えた2010年12月10日、「PlanetPTC」開催に合わせて米PTC Mathcadビジネスユニット責任者であるジェイク・シンプソン(Jake Simpson)氏が来日、@IT MONOist編集部では直接詳細を聞く機会を得た。

工学計算をWYSIWGに実現するだけではない、そのユニークさ

 Mathcadは2006年にPTCが買収した工学計算専門の計算ソフトウェアだ。ほかの工学計算ソフトウェアが独自のプログラム関数を駆使して計算を行うのと比較し、Mathcadは一般的なオフィスソフトウェアで文章を書くように「ホワイトボード」と呼ぶインターフェイス上でWYSIWYGに数式を入力して計算させることができるユニークな製品だ。実際の演算に使用した計算式がそのまま技術ドキュメントとして活用できる利点がある。また、計算の履歴も記録されるため、意図(なぜ、どのようなプロセスを経てドキュメントが記されたか)の追跡が容易な点も特徴となっている。

一般的な計算ソフトウェアとのインターフェイス比較(Mathcad 15.0の資料より抜粋) 一般的な計算ソフトウェアとのインターフェイス比較(Mathcad 15.0の資料より抜粋)
上の数式は表計算ソフトウェアを使用した場合の計算式。πはpi、べき乗数は^、平方根はSQRTと表現しなくてはならない。このため、一見しただけではどのような計算を行っているのかが分かりにくい。下の数式はMathcadで同じ内容を表現したもの。直観的な表現になっているため、担当者以外でも計算の意図が伝わりやすくなっている。もちろん表記だけではなく、数式どおりの演算結果も得られる

Mathcad Prime 1.0はCreoと強く結び付くようになる

 Mathcad Prime 1.0は、同社のCAD製品群が新たに「Creo」として統合されるのに合わせ、Creoアーキテクチャにマッチする形でリリースが進められるようだ。Pro/ENGINEERなど、PTCのCAD関連製品がCreoファミリーとして一新される動きに歩調を合わせ、ゼロから再構築されていくという。

 「Mathcad Prime 1.0では、PTCが掲げる『PDS(Product Development System)』に対応するべく、ほかのPTC製品群とのコラボレーション機能に注力した開発が行われました。技術者個々に向けたアプリケーションというだけでなく、エンタープライズで利用することで大きな利益を得られるものに仕上がっています」(シンプソン氏)。

 これにより、アーキテクチャが統一されることで、WindchillやCreoなど、PTCのPLMポートフォリオ上の製品群とのデータ連携がより緊密で柔軟になることが予想される。

 Mathcad Prime 1.0の段階では、具体的には次の3つのポイントを重視した機能が盛り込まれているという。

  • 設計者の生産性向上
  • コラボレーション
  • プロセス改善

 生産性向上の視点でいうと、前述の「ホワイトボード」インターフェイスを使ったさまざまな工学計算の履歴をログとして保存できる点が挙げられる。計算履歴そのものを設計意図に含めて、ドキュメントとして共有できる。

 このほか、Mathcad Prime 1.0では、単位ライブラリの拡充や、関数も600以上用意されるという。直交表や極座標、コンター図(等高線図)の表現にも対応する。

Mathcad Prime 1.0の改良点とインターフェイス例 Mathcad Prime 1.0の改良点とインターフェイス例(当日発表資料から引用)
Mathcad Primeは.NET Frameworkをベースにゼロから作り直したという

 完成品の図面とその計算式だけでなく、設計過程で行われる計算がどのようであったかを記録しておく理由について、シンプソン氏は次のように語る。「そこに設計者の意図が詰まっているからです。そして、この計算過程そのものが企業の重要な知的財産だと考えます」。

 コラボレーションに関しては、Creo 1.0/Pro(旧Pro/ENGINEER)とMathcad間で、パラメータ情報の変更を自動で同期し、再計算を行う機能が注目される。Mathcad上の数式が変更になると、関連する図面でも、その計算式に即して形状の変更が反映される。例えば公差基準を変更する際などでこの機能を利用すると、Mathcad Prime上で計算式の値を変更した瞬間に、各CADデータの関連個所がすべて自動的に再計算されるようになる。これを活用できれば、都度、過去の図面を探し出して確認し、それぞれの設計データに反映させていくような、ムダの多い作業が減ることになるだろう。

 「工学計算、品質工学など、数式を活用する場面は多岐に及びます。Mathcad Primeを活用することで、要件定義から構想設計、システム設計、検証や評価といった設計開発領域のムダを排除できると考えています」(シンプソン氏)。

要件管理や構想設計から検証・評価までのプロセス改善に効果的 要件管理や構想設計から検証・評価までのプロセス改善に効果的だという(当日発表資料から引用)

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