昨年度の優勝校 上智大学の今年の車両は、カーボンモノコックの採用と、ターボチャージャの採用が目玉になっている。また今年から、同校の車両で印象的だった大きなリアウィングはなくなってしまった。
「昨年度まで、フレームに関しては軽量化と剛性の両立を目的とした設計でした。今年度は軽量と剛性の両立について、ほかの方法でアプローチしたいと考え、モノコックを採用しました。昨年度のフレームと比べねじれ剛性が4倍近くアップしました。実際の車両の挙動や走行時のロギングデータを見たところ、構成の違いによる車体の動きに変化があり、目的は十分満たされたと考えました」と、上智大学のチームリーダー 門倉 章太さん。
実際にドライバーが実地の感覚としてフロントの剛性が上がったことによって、コーナーでの入りのスムースさが向上したと考えられるという。「コース走行中における横方向の荷重移動量のフロントとリアの関係性について、サスペンションの前後のロール剛性配分から出ている理論値に対し、サスペンションストロークから検出した実測値を比較しました。昨年までは、理論値実測値の間にずれが少し生じていました。それが本年度、理論値に近くプロットされています」 (門倉さん) 。
「軽量化との両立を図りつつもオーバースペックにならない範囲なら、剛性は高い方がいいということを今年の車両から学び取れました」(門倉さん) 。
「パフォーマンスダンパは、車体剛性を動的に高めるという効果の補助的なものとして搭載していました。ねじり剛性の分布を調べると、フロントセクションの剛性の低さが顕著に目立ちました。リアセクションは動的にではなく、静的にしっかりと剛性アップを図ろうと考え、代わりにクロスメンバの配置などを取り入れました」
今年の車両は、(今年の活動の)前半ではパフォーマンスダンパを載せ、後半からはクロスメンバに変更して走行試験したという。後者の方が、リアタイヤの接地性が向上したので、最終的にこちらを採用したとのことだ。
「ウィングがなくてもスタビリティファクタ的にエコ走行時にアンダ方向に働いていることが分かりました」(門倉さん)。またシャシーでモノコックを採用したことで構造が変わり、車両の特性も変わったこともあったかもしれないと門倉さんはいう。つまり、シャシーの基本性能で、必要なスタビリティファクタを得られたため、空力の補助が特に必要なくなったということのようだ。ダウンフォースも昨年と同様、狙い通りに出ているとのことだ。
もう1つ理由があるという。「昨年度はウィングを搭載したら車両重心周りの空力モーメントがどうしても開いてしまったこともありました。今年は外してモーメントを減らすようにしました」(門倉さん)。
最初はまったくの手探りの状態。設計の方法解析の方法から自分たちで考えなくてはならず、実際、製作段階、他チームや企業の協力を得て、手探り開発。そのいままでにない新しいことへのチャレンジで、多くの苦労をしたとのことだ。
同校の車両が採用するバイクのエンジンは高回転型になっている。「ただフォーミュラSAE競技では、低中速域での差が大きいため、過度なトルクアップを抑えるためにスーパーチャージャを搭載しました」(門倉さん)。また昨年の車両から共鳴過給コネクタを使っている。中低速域におけるトルクバンドをワイドに取ろうと考えたことから採用をしたとのことだが、今年は物理シミュレーションなどを行い、共鳴過給コネクタをさらに進化させたという。
今回、上智大学は優勝を逃し、総合2位となった。「車両を熟成させるには時間が足りなかった、またドライバーの走行量が足りなかったことが、今回の反省点です。最近、大会で上位に来ている横浜国大さんや東大さんは、走行量をかなりこなしていますし。当校も、もう少しテスト走行を多くやっていかないといけません」と門倉さんは今回の結果の要因について語る。門倉さんは、昨年はパワートレイン班のパートリーダーも務めた。
今回の車両完成は、5月下旬と遅めだった。通常は、2月終わりから3月初頭にはシェイクダウンし、走り込みをし、車両の品質を高めていくという。完成が遅めになってしまった理由については、上智大学チームが昨年2008年の11月下旬にオーストラリア大会に出場し、車両設計開始が遅れてしまったことも挙げている。
今回、上智の車両で大きな特徴だったカーボンコンポジット・モノコックだが、参考にした学校はあるのだろうか、尋ねてみた。「モノコックについては、オーストラリアのオークランド大学(University of Auckland)の車両を参考にしました。この学校は、3年前ぐらいから採用しています。ホームページに製作の写真などを載せているのですが、それを参考にして勉強させていただきました」(門倉)。
日本の学生フォーミュラ大会でモノコック車両が登場したのは2008年開催の第6回から。海外で開催されている大会の上位校では、すでにモノコックを採用している車両が多いという。2008年はシュッツガルト大学(University of Stuttgart)がスペースフレームで世界制覇をしているが、2009年はモノコックに変えてきたという。
シュッツガルト大学は上智大学とオーストラリア大会の動的審査で一緒に走ったとのこと。上智とシュッツガルト大学は同じタイミングで設計をスタートしたが、後者の方が1カ月早くシェイクダウンしたという。それで、両校の開発力の違いを感じたという。
そもそも、カーボンを扱ううえで、ハニカムはどうするのか、カーボンの厚みはどうするのか、積層はどうするのか……カーボンモノコックを実現するには、すべてのことを一から情報収集しなくてはいけない。門倉さんたちは、その調査の部分でかなり時間を割いたそう。「モノコックについては、ほとんど手探り状態で、苦労しました。積層1つでも、どうやってやろう、道具は何を使おう、となってしまいますから」(門倉さん)。
カーボンモノコックの技術について、素材などをどこから購入すればいいのかなどの情報が、あまり公にされていないそう。上智大学の場合、実際には、カーボン製品を作っているメーカーを訪問し、概念だけではなく、具体的な細かい情報を仕入れ、そこからスタートしたとのことだ。「モノコックの雄型製作は大学内ではできません。スポンサーシップの交渉と設計の同時並行でした」(門倉さん)。
さらにモノコックが焼けた後、サスペンションの各ポイント位置決めが重要になってくる。ドリルを使い、手で穴を開けるわけにいかないので、それをどこの企業でやってもらうか。そういったことも検討材料に含まれていた。
他大のピットの学生たちが、「モノコックは高い!」とよくいっていたこともあって、コスト面ではどうなのか、門倉さんに尋ねてみた。「パイプフレームからすればかなり高いですが、モノコックは基本的に材料費だけです。いざやってみると、コストが高くなるという心配よりは、先ほどのように、情報収集をして、メーカーを探すなどが大変でした」(門倉さん)。
「昨年度の動的審査で、ほかの種目は1位なのに、アクセラレーションが2位だったこと。低速からもっとトルクを出したいと考えました。この大会の実際のコースを見ても、せいぜい100数km/hまでしか出せないよう設定されています。そこで、低速からの立ち上がりを重視したところ、スーパーチャージャを付けたら、速くなるのではないかと」(門倉さん)。
それは、目論見どおりだったのだろうか? 「まだコースと合っていない感じでした。もっと低速にしたほうが、スーパーチャージャの特徴はよく生かせたと思います。しかし今年は付けたばかりなので、単純にトルク自体も、まだまだ出せると思いますし」(門倉さん)。
「いまのチームの反省点を生かして、世界制覇を目指してがんばります」(門倉さん)。
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ここで紹介した5校は、厳しい基準をクリアした書類を期日に間に合わせ、しかもそれが高評価されたという、いわゆるこの大会における優等生。その下には、書類の作成ルールを守らない、また昨年の書類をそっくりそのままコピーし提出してくる学校もあるという……。今回も「ルールをしっかり読んでください」と審査員による総講評で強く述べられた。
社会に出ると、膨大な仕事量の中で、スケジュールをやりくりしていかなければならない。組織の中では、書類作成のルールや期日もしっかり守らなければいけない。技術ばかりではなく、実務に対する心構えも学生のうちにたたき込まれるというわけだ。さて私たちも、ここで紹介したフォーミュラの学生のように、しっかりとできているだろうか。
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