進化の分岐点を迎えるカーナビ(2/5 ページ)

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

フラッシュメモリーとPND

 HDDの次に、カーナビの記憶媒体として注目されたのがフラッシュメモリーである。当初は、HDDに比べてコスト当たりの記憶容量が非常に小さかったため、日本のカーナビメーカーは搭載を検討していなかった。一方、フラッシュメモリーに目をつけたのが、オランダTomTom社やGarmin社(ケイマン諸島)などのPND(Personal Navigation Device)メーカーである。2000年ごろから、欧米市場でもカーナビ市場が形成されつつあったが、その多くは曲がり角でどの方向に曲がればよいか矢印で指示するだけの「ターンバイターン」方式の簡易ナビであった。この市場においては、日本のカーナビメーカーが得意とする、高機能だが高価なカーナビは受け入れられないと言われていた。

 PNDは、3.5〜4インチサイズながら地図を表示できるタッチスクリーン、地図データを格納するフラッシュメモリー、そしてGPSによるナビゲーション機能を搭載している。その価格は数百米ドル程度と、20〜30万円が当たり前の日本メーカーのカーナビよりもはるかに安かった。

 2004 年に登場したPNDは欧米市場を席巻し、2006年以降急速に市場を拡大した。矢野経済研究所の調べによれば、2007年における、自動車に組み込むタイプのカーナビ(組み込み型カーナビ)の世界市場規模は約893万台。これに対して、2004年時点でほぼ市場が存在しなかったPNDは、2007年には世界全体で3080万台にまで市場規模を拡大している。

日本のPND市場も拡大

 既存の組み込み型カーナビの認知度が高い日本でも、PNDの市場規模が急拡大しつつある。2009年の日本の市販カーナビ市場は167万台規模と予測されているが、このうちPNDは過半数を超える86万台を占めると見られている。PNDへの対応の遅れを指摘されてきた日本のカーナビメーカーだが、国内での市場拡大に合わせて各社の取り組みが加速している。

 日本メーカーとして、地図データの記憶媒体にフラッシュメモリーを採用する、いわゆるPNDを初めて発売したのが三洋電機である。同社は2006年に PNDを発売して以降、着実に販売台数を伸ばしており、ソニー、パイオニア、パナソニックが続々とPND市場に参入する中でトップシェアを確保している。

 三洋電機は、1995年からポータブルナビ「ゴリラ」を販売している。「フラッシュメモリーの登場によりポータブルナビは大きく進化した」と語るのは、三洋電機コンシューマエレクトロニクスの車載機器事業部 商品企画統括部ポータブル商品部の部長を務める山下隆弘氏である。同氏は、「自動車への着脱を繰り返すことの多いポータブルナビの課題の1つが、光ディスクやHDDなど回転系の機構を持つ記憶媒体を原因とする不良の発生だった。そこで、回転系の機構を持たないフラッシュメモリーを採用することにより、明確に不良率が下がった。また、HDDより消費電力が少ないことから、製品内に2次電池を内蔵することも可能になった」と語る。

写真2三洋電機のポータブルナビ「ゴリラ」(2009年モデル) 写真2 三洋電機のポータブルナビ「ゴリラ」(2009年モデル) 

 三洋電機が2009年4月に発表した新製品は、フラッシュメモリーを8Gバイト搭載している(写真2)。「2006年に発表した製品では、フラッシュメモリーの容量は1Gバイトだった。2005年までのHDDに比べれば記憶容量が少なくなったこともあり、地図データの容量を減らさざるを得なかった。つまり、縮尺の粗い地図しか使用できなかった。しかし、2009年の新製品では、HDD搭載カーナビと同等レベルの詳細な地図データを搭載することが可能になった」(山下氏)という。また、自車位置の測位精度を向上するために、2軸(上下、左右)のジャイロセンサーと3軸加速度センサーを使った自律航法機能を搭載。バックモニターの接続も可能になった。

 山下氏は、今後の日本市場におけるPNDの方向性について、「ポータブルナビといえども組み込み型カーナビと同等の機能が求められており、今後も機能を拡張していかなければならない」と見ている。さらに、「自動車の外に持ち出すことができるポータブルナビとしての価値の提案も重要だ」と語る。

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