進化の分岐点を迎えるカーナビ(1/5 ページ)

カーナビが進化の分岐点を迎えている。2006年以降、PNDがナビゲーション機器市場の急拡大をけん引し、携帯電話機のナビゲーション機能も大幅に性能が向上した。こうした動きを受けて、組み込み型カーナビにも変化が求められている。本稿では、まずカーナビ開発の歴史と現在の市場の状況をまとめる。その上で、次世代カーナビ用の最新プロセッサ/リアルタイムOSの動向を紹介する。

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

激変するカーナビ市場、PNDの登場が呼び水に

 カーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)は、地図上に自車の現在の位置を示しながら、目的地までの走行経路を案内するシステムである。しかし、現在一般的に「カーナビ」と呼ばれている製品は、このナビゲーション機能以外に、ラジオ/テレビ放送の受信や音楽/映像の再生など、カーエンターテインメントシステムとしての機能も備えている。そして、これらのカーナビに関する技術開発を推進し、その製品市場を開拓してきたのは日本の自動車メーカーとカーナビメーカーである。

日本発祥の自動車システム

図1カーナビ機能の進化の歴史 図1 カーナビ機能の進化の歴史 上段には、カーナビに加え、PND、携帯電話機の進化の流れを示した。下段には、車載エンターテインメント機器の進化も示している。
写真1本田技研工業の「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」 写真1 本田技研工業の「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」 

 日本で開発されたカーナビ/カーエンターテインメントシステムは、図1に示すようにその機能を向上させてきた。まず、世界初のカーナビとされるのが、 1981年に本田技研工業が開発した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」である(写真1)。そして、1990年に、GPS(全地球測位システム)を使って自車の位置を表示するカーナビを、マツダ/三菱電機とパイオニアがそれぞれ開発している。1993年には、クラリオンが、車速パルスセンサーやジャイロセンサーなどから自車の位置を割り出す自律航法とGPSとを組み合わせたカーナビを開発している。その後も、カーナビの機能向上は日本メーカーが先導してきた。

 カーナビの黎明期において、自動車メーカーとともにカーナビ開発を推進したのが、当時のカーラジオ/カーオーディオメーカーである。そして、カーナビはカーラジオ/カーオーディオと同じく、ダッシュボード中央に設置する製品だ。こうした背景から、カーナビがカーラジオ/カーオーディオの機能を持つようになるのに時間はかからなかった。

 さらに、カーナビは、地図と自車位置を表示するためにディスプレイを備えていた。このディスプレイで、テレビやDVDビデオなどの映像表示を行う機器としての広がりも持つこととなった。カーナビは、カーラジオ/カーオーディオをカーエンターテインメントシステムに進化させるきっかけにもなったのである。

記憶媒体が進化を加速

 カーナビの進化において重要な役割を果たしたのが、地図データを格納するための記憶媒体である。ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータでは、走行軌跡を表示するモノクロディスプレイの前に、透明なフィルムにカラー印刷した地図シートを手作業で挿入することによってナビゲーションを行っていた。つまり、世界初のカーナビでは実物の地図を使用していたのだ。

 その後、電子化した地図データを格納する大容量の記憶媒体として選ばれたのがCD-ROMである。1987年にトヨタ自動車とデンソーが開発してから、 10年以上も地図データの記憶媒体として利用され続けた。そして、地図データの記憶媒体は、DVD-ROM、HDD、フラッシュメモリーなど、大容量化がより容易なものに移行していった。

 「DVD-ROMの採用によりカーナビの進化が加速した」と語るのは、パイオニアのモバイルエンターテインメントビジネスグループ 市販事業部市販企画部で部長を務める高柳幹彦氏である。高柳氏は「1997年に、当社がカーナビにDVD-ROMを初めて採用した。このころには、地図データはより縮尺が細かくなるなど詳細な情報を備えるようになっており、日本全国の地図データであれば、CD-ROMで7〜8枚に分割する必要があった。DVD- ROMであれば、それを1枚に格納できる。さらに、CD-ROMよりデータの読み取り速度が速いことから、3Dマップの表示なども可能になった。現在のカーナビの基本機能は、DVD-ROMの登場で完成したと言ってよい」と説明する。

 パイオニアは、カーナビでのHDDの本格的な採用でも先鞭を付けた。同社は2001年に、HDD搭載モデルを発売している。「当時は、使用温度範囲や耐振性などの面で車載グレードを満たすHDDが存在しなかった。そこで、東芝とともに、ノート型パソコン用の製品をベースとして、車載グレードのHDDを開発することで対応した」(高柳氏)という。

 また、HDDを地図データ以外の記憶媒体として活用する機能も同時に実現した。それが、CDの楽曲をMP3形式に変換してHDDに蓄積する「ミュージックサーバー」である。高柳氏は、「HDDは、DVD-ROMよりも読み取り速度が速い。しかし、それだけでは、CD-ROMからDVD-ROMに変わったときほどの付加価値にならないと考え、ミュージックサーバーを開発した」と述べる。

 DVD-ROMよりも大きな記憶容量を持つHDDを搭載することで、カーナビはさらに詳細な地図データを利用できるようになった。同時に、ミュージックサーバーに代表されるさまざまなエンターテインメント機能の搭載が加速度的に進み始めた。2005年には、米Apple社の音楽プレーヤ「iPod」との連携機能を実現し、2006年には地上デジタル放送を視聴するために専用チューナを搭載するようになった。

 そして、2009年秋には、パナソニックがカーナビに接続して用いる車載用Blu-rayディスクプレーヤを発売する予定である。ただし、Blu-ray ディスクは、DVD-ROMのときとは異なり、地図データの記憶媒体として利用されることはない。自動車の中で、家庭と同じようにハイビジョン映像を楽しむことを目的としている。

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