そもそも“オープンネットワーク”とは何か?CANopen入門(1)(2/2 ページ)

» 2009年03月06日 00時00分 公開
[金田大介(ベクター・ジャパン),@IT MONOist]
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設計/開発/試験などの工数削減

 CANの上位層が独自仕様のネットワークと、オープンプロトコルを使用した汎用的なネットワークとでは、設計や開発のさまざまな工程で工数に差が生じます。

 例えば、独自仕様の場合は、仕様設計、仕様書作成、試験、検証、フィードバック、仕様改訂などのために、独自のソフトウェアツールや独自の試作機などの環境を開発する必要があります。一方、オープンネットワークの場合は、市販のシミュレータやテスターなどを利用して、ネットワーク全体の通信負荷や各デバイスの機能分散などを短時間で設計、検証できます。

 また、実機開発において、独自仕様の場合はあらゆる制御部分が独自仕様ですので、ソフトウェアを自社内で開発するか外部委託するか、いずれにしてもすべてをゼロから開発する時間が必要です。また、もし仕様の間違いによる修正や改良のための追加変更などが生じた場合にかかる時間やリスクも考慮する必要があります。一方、オープンネットワークの場合、最新の規格に準拠した市販の組み込みソフトウェア(プロトコルスタック)を購入して実装できますので、通信制御プロトコルの実装にかかる工数を大幅に削減できます。

 試験や評価についても同様です。独自仕様の場合は、治具やツールなどの開発に時間がかかるだけでなく、試験項目や評価結果の判定基準も独自で設定する必要があります。オープンネットワークの場合は、ネットワーク管理やデバイス間通信に必須な機能などが要件を満たしているかどうかを確認できるコンフォーマンステストの仕様やツールも公開、提供されています。それらのツールを使えば、開発したデバイスの試験項目や結果の合否判定も明白です。

 だからといって、オープンネットワークが必ずしも独自仕様より優れているわけではありません。特殊なノウハウの実装や、リソースやパフォーマンスを追求するアプリケーションの場合には、汎用性を重視したオープンネットワークでは要件にかなわないこともあるでしょう。

 ここでは、“非競争領域”や外部インターフェイスの汎用化、標準化によって工数削減や期間短縮のメリットがある場合を想定しています。場合によっては、1つのシステム内において、汎用性や相互接続性を重視する部分にはオープンネットワークを使い、システム内部の独自部分には独自仕様を使い分けることでメリットが発揮されることもあるでしょう。

CANopenの応用分野

 CANopenは当初、ファクトリーオートメーション機械の制御を主なターゲットとして開発され、デジタルI/OやアナログI/O、センサ、モーションコントローラなどの汎用的なデバイスの制御プロファイルから標準化がはじまりました。

 その後、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)で国際規格化され、ファクトリーオートメーション分野に限らずさまざまな分野の組み込みネットワークに使用され、織機、エレベータ、医療機器、鉄道車両、道路清掃車、消防車やタクシー、パトカーなどの特殊車両、太陽光発電など特定アプリケーション用のプロファイルも標準化が進んでいます。

 日本でも、医療分野やバッテリーフォークリフトなどの産業分野で、装置内や車両内のネットワーク制御にCANopenが標準的に使用されています。また近年、欧米や日本メーカーのCANopen対応の汎用デバイスの入手性やサポートも向上しており、より多くの分野への展開が期待できます。例として、「RS-232」「RS-422/485」などをベースとした独自の制御ネットワークや、CANをベースとした独自の制御ネットワークに代わる汎用的な規格としてCANopenを使用する場合が増えています。

CANを利用したオープンネットワークの例

 CANopenのほかにも、CANを利用したオープンネットワークとして標準化されている公開規格があります。ファクトリーオートメーションなどの分野で使われている「DeviceNet」。トラック、バス、建設機械などの分野で使われている「SAE J1939」。農業機器や林業機器などの分野で使われている「ISO 11783」。舶用電子機器の分野で使われている「NMEA 2000」。航空機分野で使われている「CANaerospace」などです。

 これらの規格はすべて、通信媒体としてCANを使っています。つまり物理層とデータリンク層は同じですので、CANコントローラやCANトランシーバなどのハードウェア要件は同じです。それぞれ、トラックや農機、船舶、航空機などの対象に応じた制御規格をアプリケーション層で定めたものです。

CANopenとほかのネットワークのゲートウェイ

 CANopenとSAE J1939は、異なる産業分野において設計開発されてきた規格ですが、いくつかの分野で接点があります。代表的な例は、はしご車や消防車などの緊急車両、または建設機械などです。はしご車や消防車などのベース車両はトラックメーカーから提供され、ほとんどがディーゼルエンジンを搭載しています。それら車両側のディーゼルエンジンやパワーテイクオフなどの制御にはSAE J1939が使われていますが、架装物であるはしごや放水ポンプのアクチュエータ制御にはCANopenが使われていることがあります。そのような場合には、車両側のSAE J1939ネットワークと架装側のCANopenネットワークが、ゲートウェイを介してお互いに情報を交換する必要があります。

 建設機械も同様に、ディーゼルエンジンを中心としたパワートレイン系ネットワークはSAE J1939で制御されていますが、作業機を動かす油圧アクチュエータなどの制御にはCANopenが使われていることがあります。そのような場合にも、SAE J1939ネットワークとCANopenネットワークはゲートウェイを介してお互いに情報を交換する必要があります。

 そのためCANopenでは、SAE J1939とのゲートウェイ規格を標準化して、異なるネットワーク間の制御通信を実現可能にしています。

 またCANopenは、SAE J1939のようなCANを媒体としたネットワークだけでなく、オートメーション分野で普及している「Modbus」「AS-i」「Ethernet」などとのゲートウェイ規格も標準化しており、それらのゲートウェイを実装したモジュールやASICなども市販されているオープンなネットワークです。



 現在、CANは非常に簡単に使えるうえに、高い信頼性を備えたシリアルバス通信です。単に通信媒体として使うだけでもメリットはありますが、複雑なネットワーク管理やデバイス制御を効率よく実現するために、CANの上位層のオープンネットワークとしてCANopenも併せて検討されてはいかがでしょうか。

 設計当初は簡素なネットワークであっても、顧客要求による機能追加や、信頼性、保守性の向上などのために改版を繰り返すことがあるかと思います。そのような場合においても、当初からCANopenなどのオープンネットワークを採用しておけば、システムの拡張や改版に役立つことでしょう。

 次回は、CANopen規格の主な特徴を解説します。お楽しみに!(次回に続く)

【 筆者紹介 】
金田 大介(かねだ だいすけ)
ベクター・ジャパン株式会社 オープンネットワーク部

CANopenやSAE J1939などCANの上位層として標準化された規格に関連する開発ツールや組み込みソフトウェアの販売に従事している。

ベクター・ジャパン
http://www.vector-japan.co.jp/
ベクター・ジャパンのCANopenソリューション
http://www.canopen-solutions.com/


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