さてここまでで数枚の写真をご覧いただいたと思いますが、トランスミッションで用いられているギアに施されている工夫に気が付きましたか?
ギアの歯に注目していただきたいのですが、一般的なギアの歯のイメージといえば軸方向に対して平行になっていますよね。しかし下の写真5を見れば分かるか思いますが、ほとんどのギアは軸方向に対して斜めの歯になっています。
これはギア同士がかみ合うことで発生するギア鳴り音を防ぐために、斜めの歯を持つ「ヘリカルギア」を用いているからです。ヘリカルギアを用いることで本当にギア鳴りが減っているのかはすぐに確認できます。少し思い出していただきたいのですが、リバース(R)で車を後退させると、
「ウイーン!」
と非常に大きな音がしますよね?
それはリバースギアだけヘリカルギアではなく、通常の「スパーギア」(平行の歯)を使用しているためです。
「後退する状況」=「完全停止状態」という前提が成り立ち、シンクロナイザ機構は不要と判断するでしょう。よって一番ギアが入りやすいスパーギアを用いているという点のほかに、「コストを抑えたい」というのも採用の理由として考えられます。
ただし一部の高級車などではリバースギアにもシンクロナイザ機構を用いて、さらにヘリカルギアを用いている車種もあります。ちなみに写真5のMTもシンクロナイザ機構&ヘリカルギアを用いています。
ここでは、MT車のメリットとデメリットをAT車とを比較しながら考えてみましょう。
まずMT車のメリットとして挙げられるのは、以下でしょう。
併せて、MT車のデメリットも以下に挙げてみましょう。
MT車を毛嫌いする理由として特に挙げられるのが「坂道発進」ですね。瞬時にクラッチをつながなければ車が後ろに下がってしまうので、車の運転に慣れない人にとっては一種の恐怖さえ与えてしまいます。
そこで最近のMT車には「ヒルスタートアシスト」という機構を備えているケースが多いですね。ブレーキペダルから足を離しても、電子制御によって1〜2秒間ブレーキを保持してくれるので、安心してクラッチ操作に集中できるという機構です。筆者も実際にヒルスタートアシストを体感しましたが、本当に便利で驚きました。この機構が、MT車のデメリットを大幅にカバーしていると筆者は思います。今後開発されるMT車にはぜひとも当然のように搭載してほしいですね。
長々と説明してきましたが、トランスミッションとしての基本がMTであり、さらに車を運転するという楽しみの基本もMTにあります。さまざまな規制ゆえに、電子制御によって徹底的に損失をなくすのも致し方ないとは思いますが、“運転の楽しさ”を後世に伝えるためにも、自動車メーカーは今後もMT車の存続を継続していただきたいと切に願っております。
次回はクラッチについて詳しく解説する予定ですのでお楽しみに! (次回に続く)
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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