トランスミッションのシフトってどうなっているの?いまさら聞けない シャシー設計入門(1)(2/3 ページ)

» 2009年02月06日 11時00分 公開

変速の原理

 実際にMT内部には多数のギアの組み合わせがあります。では、どのようにしてそれらの組み合わせを変化させているのでしょう? 現物なしで、複雑なトランスミッションの仕組みの説明をすると混乱してしまうかもしれません。ですから、まず簡単な組み合わせを例にして説明していきます。

 基本的にトランスミッションの全てのギアは、“始めから組み合わされた”状態です。つまり「ギアA:ギアB」というギアの組み合わせが「ギアA:ギアC」に組み替えられるという構造ではないのです。

 まず根本的な部分でいうと、組み合わされているギアの片方は、基本的にシャフトに固定されていないフリーギアです。

 ここで、以下の図2をご覧ください。

ALT 図2 ギア ギアBはフリーギアのため、ギヤAがどれだけ回転してもカウンタシャフトへは動力が伝わらない。

 ギアAはメインシャフトに固定されていて常に回転しているとしましょう。ギアBはカウンタシャフトに取り付けられてはいますが、固定はされていないので空転しているだけと仮定します(動力伝達しない状態)。この状態だと、どれだけエンジン回転数が上がっても、動力はタイヤへ伝わりません。

 そこで、溝によってギアと連結している「スリーブ」という部品をギアBに隣接させます。スリーブをカウンタシャフト上で任意にスライドさせることで、ギアBとカウンタシャフトを連結できるようにします(図3)。

ALT 図3 ギア スリーブとカウンタシャフトは中心部の溝(スプライン)で連結されスリーブを任意にスライドさせることで、必要に応じてギアBをカウンタシャフトに連結できる。

 このとき、スリーブとギアBを連結させると、

 「カウンタシャフト=スリーブ=ギアB」

 という関係になります。

 つまりギアBがカウンタシャフトと連結できたことになりますよね。つまりエンジンの動力がギアAを介してギアBへと伝わり、最終的にタイヤへと伝わります。これがMTにおける変速の基本であり、このような組み合わせを複数備えているというわけです。このスリーブをスライドさせているのが「シフトフォーク」で、このシフトフォークを動かしているのが運転時に皆さんが直接操作する「シフトノブ」です。

 余談になりますが、全てのスリーブがどのギアとも連結していない状態が「ニュートラル」(N)です。

シンクロナイザ(同期)機構

 さてここでもう1つ、MTにおいて重要な項目に触れます。スリーブがギアと連結する際に発生する“ギアBとスリーブとの回転差”です。

 ギアBは空転しているとはいえ、ギアAの回転(メインシャフト)によって回転しています。スリーブもカウンタシャフトと連結しているので、すでにメインシャフトに設けられたギアを介し、何らかの変速比を与えられた回転数にて回転していることになります。

*筆者注:スリーブが連結するギアはMTの種類によって異なりますので、メインシャフトのギアにスリーブが連結する構造も多数存在しています。ここでは回転数が違うギアとどのようにして連結するかに注目しています。



 つまり、ギアBにスリーブが単にスライドしていっただけでは、連結できません。無理やり連結させようとしても、「ガリガリ!」というギア鳴りがして弾かれるなどします。最悪の場合だと、ギアが欠けてトランスミッション自体が損傷してしまいます。

 そこで、スリーブの内側にクラッチ作用を行う「シンクロナイザリング」という部品を設け、ギアBにスリーブが連結する直前に、ギアBとスリーブの回転数を同期させるようにします。

 この仕組みは、陸上競技のリレーのバトン受け渡しに例えることができます。全速力で走ってきた選手からバトンを受け取るとき、自分が完全に停止していたのではスムーズなバトンの受け渡しはできません。そこでバトンを受け取る前に相手のスピードに合わせて前に走ることで速度を同期させ、受け渡しをスムーズにしていますよね。

 シンクロナイザリングを使い、これと同じようなことを加速・減速ともに機械的に行うのです。シンクロナイザリングはギアへの攻撃性の低さ(傷つけにくさ)も考慮しつつ、接触した際に食い込みやすいよう黄銅製で作られています。

ALT 写真2 シンクロナイザリング リング接触面にシンクロナイザリングの摩耗痕が見える。写真のMTギアはスリーブ連結部を備えているため少し変わった形状をしている。

 シンクロナイザリング内面(ギアと接触する面)は、変速時にギアを抜くとき、油膜が作用して密着することにより起こる抵抗を防ぐため、細かな溝を切って油膜切れするように工夫されています。

 逆にシンクロナイザリングが接触するギア側は、均一に圧力をかけることやリングへのダメージを最小限にするために鏡面加工されています。

 本来はシンクロナイザリングだけでなく、複数の部品によって構成されているのですが、理解度を高めるために単純化して同期の流れについてご説明します。

 まず変速する際には必ずクラッチペダルを踏みます。これによってエンジンの動力がメインシャフトに伝わらなくなり、MT内部の各部品は惰性で回転することになります(写真3)。*駆動輪からのバックトルクなどがありますが、ここでは読者の混乱を避けるため省略します。

ALT 写真3 スリーブとギアが連結する前の状態 スリーブにはシフトフォークが入る溝があり、シフトノブと連動してスリーブをスライドさせることが可能だ。

 この状態でスリーブをスライドさせシンクロナイザリングがギアBに接触することにより、惰性で回転しているギアBが素直に外部からの力の影響を受け、スリーブと同回転になります。つまりお互いの回転数が同期したということですね。

 この状態でスリーブがギアBに連結し、変速が行われます(写真4)。

ALT 写真4 スリーブとギアが連結した状態(変速) シャフトとギアとが間接的に連結し、動力伝達を行うことが可能となる。

 最近の車両では、同期をよりスムーズに行うためにシンクロナイザ機構を複数個用いて、非常にスムーズな変速を可能にしています。

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