量産型工場の生産管理手法として生まれたTOCは、そのエッセンスを拡張させて設計開発型業務のマネジメントにも応用されている。TOCの最新ツール「クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント」を紹介しよう。
前回「TOCのPMが本当に管理すべきポイントはどこか」は、TOCのプロジェクトマネージャが本当に管理しなければならないポイントを説明しました。今回と次回はプロジェクト管理を実際に進めるうえでポイントになるバッファマネジメントを具体的にはどのように実施するのか、計画・実行・確認・対策というPDCAサイクルそれぞれのフェイズに沿って検討していきましょう。
TOC-CCPMを活用しバッファマネジメントを始める前に、いま計画しているプロジェクトはそもそも実行するべきか否かを検討します。考えなければならないのは、どのような商品をいつ出すのかについて、「ボトルネックである市場を徹底活用する」という視点なのです。
これを決めるには、市場の視点、競合の視点、技術の視点の3つから考えていきます。
市場の視点 市場はどのようなものを求めているのか
競合の視点 ライバル会社はどのような製品を市場に投入する可能性があるのか
技術の視点 自社が市場に提供できる要素技術はどのようなものか
一般的に、こういったさまざまな動向は、ロードマップ(市場ロードマップ、技術ロードマップ、製品ロードマップ)という形でまとめられ、これに基づいて開発すべき製品コンセプトが形づくられます。
製品コンセプトが明確になれば、次はプロジェクトとして目指すべきゴールを明確にしていきますが、そのためにはプロジェクトのODSc、
の3つは最低限文章化しておく必要があります(表1)。
目的は、新たな製品を開発することで得られる顧客の利便性は何か、自社の利益はどの程度か、開発プロジェクトチームが達成すべき狙いは何かといった、プロジェクトのステークホルダー(利害関係者)それぞれの視点から確認します。
成果物は、プロジェクト完成時点で得られる具体的な物・サービスを記載します。通常成果物は、最終成果物といくつかの中間成果物に分解されます。この後の計画立案作業をスムーズに行うためにポイントとなる、中間的な成果物も明確にしておく必要があります。
成功基準は、プロジェクトが完成した時点で、そのプロジェクトが成功であったかどうか判断する基準です。このため成功基準はできるだけ定量的にとらえられる、少なくとも品質・納期・コスト(QCD)という3つの項目については明確にしておく必要があります。
このプロジェクトを実行することによって達成されること。顧客満足・株主満足・従業員満足の3つの視点から検討
プロジェクト実行の結果として得られるもの(通常は実体があるもの)。例えば「新しい組織的な能力や製品」「新しい能力や製品の要素や特徴」など7つ程度挙げる
プロジェクトによって決意された目標がどの程度達成されたかを測定するもので、例えば、「品質」「コスト(人員数)」「納期」などに関する項目について記載しておく
目的・成果物・成功基準のゴールを明確にできたら、プロジェクトリソースの負荷状況といったゴール達成を脅かすさまざまなリスクを確認したうえで、プロジェクトを実施すべきかどうかを決定します。
重要なことは、ODScの根拠となっているロードマップはあくまで予測でしかないということです。予測は期間が長くなればなるほど精度が悪くなりますから、プロジェクトのさまざまな変更を減少させるためには、できるだけ市場投入時期に引き付けて開発を開始し、一度キックオフすれば一気呵成(かせい)に開発を行うことが重要です。このためプロジェクトをスタートする前に何をしておくべきなのか、どのような条件が整えば開発を開始するのかといったスタート前の条件整備も成功の鍵となるのです。
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