TOCのPMが本当に管理すべきポイントはどこかTOC流の開発型プロジェクト管理術「CCPM」(3)(1/3 ページ)

量産型工場の生産管理手法として生まれたTOCは、そのエッセンスを拡張させて設計開発型業務のマネジメントにも応用されている。TOCの最新ツール「クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント」を紹介しよう。

» 2009年01月20日 00時00分 公開
[村上悟, 西原隆/ゴール・システム・コンサルティング,@IT MONOist]

 小説『ザ・ゴール』は、主人公である工場長アレックス・ロゴが「3カ月以内に黒字転換しなければ工場閉鎖」と宣告され、立て直しを図るビジネス小説です。

 TOCは、『ザ・ゴール』で描かれているように工場内の生産をどのようにコントロールするかという考え方からスタートして、プロジェクト管理、セールスやマーケティング、管理会計、問題解決から企業の戦略全般を立案する方法論まで、さまざまなツールが開発されてきました。しかし基本となる考え方は『ザ・ゴール』の中にすべて描かれています。

 開発マネジメントをどのように変革していけばよいかを考えるに当たっても非常に参考になりますので、今回は『ザ・ゴール』の改革ストーリーを振り返りながら考えていきましょう。

ゴールを明確にしなくては始まらない

 ゴールが分からなければ、何をするべきか考えることができません。開発マネジメントの何を変えるかを考える前に、そもそも開発をマネジメントする目的(ゴール)は何かを確認しましょう、『ザ・ゴール』にこんなシーンがあります。

 主人公のアレックスと大学時代の恩師であるジョナが、最近工場に導入した最新鋭ロボットついて議論するシーンがあります。アレックスはロボット導入で生産性が上がったと話すのですが、ジョナはそれに対して3つの質問を投げかけます。

  • ロボットを導入したことで出荷量は増えたかね?
  • ロボットを導入したことで在庫は減ったかね?
  • ロボットを導入したことで従業員を減らせたかね?

 アレックスはすべての質問にNOと答えます。するとジョナは、3つの質問すべてにNOであるならば、最新鋭ロボットは何の役にも立っていないと断言します。そして、いぶかるアレックスに「そもそも工場のゴールは何か?」と質問を続けます。

 工場閉鎖の瀬戸際にあったアレックスは、藁(わら)をもつかむ思いで「工場のゴールは何か」を考え抜きます。そして結論は「もうけ続ける」ということ、もうけ続けなければ工場のみならず企業そのものが存続できない、だから「もうけ続ける」ことを最終ゴールとして考えなければならないという、ごく当たり前の結論に行き着いたのです。

 次にジョナは、企業がもうけ続ける方向に向かっているかどうか判断するためには、たった3つの指標ですべて判断できるとアレックスに教えます。先の3つの質問は、この指標に沿った質問であり、指標に何ら好影響がないなら、最新鋭ロボット導入は成功したとはいえないとアレックスに教えたのです。

スループット 販売を通じてお金を作り出す割合を増やす

投資 販売しようとする物を購入するために投資したすべてのお金を減少させる

業務費用 在庫をスループットに変えるために費やすお金を減少させる

 ではこのスループットの考え方を開発マネジメントにどう生かしたらよいのでしょうか。ジョナの教えを開発現場の一般的な言葉に置き換えてみましょう。

1. 売れる完了テーマは増加したか?(スループットを増やす)

 スループットとは、一定期間で得られる収入です。開発では、より多くの開発テーマが完成できればスループットは増加したといえます。ただしスループットとは入ってくるお金そのものですから、販売が増加するテーマに限られます。単純に開発テーマを多く完了させればよいのではないという点にも注意が必要です。

2. 開発期間は短縮できたか?(投資を減らす)

 開発投資の金額の多寡は、スループットを得るために開発業務をスタートしてから、現金を回収するまでの期間で決まります。スタートから上市するまでの期間が長ければ長いほど投資の量が増加することになります。よって開発期間を短縮することが重要なのです。

3. 業務費用を減らすことができたか?

 業務費用とは、販売量にかかわらず発生する固定費であり、人件費が大きな比率を占めます。日本の経営では、エンジニアを解雇してまで利益を出そうとする方針の企業はそう多くありませんし、ゴールドラット博士も安易なリストラを戒めています。その点を考慮すると、エンジニアの数を一定以上増やさず、多くの開発テーマをこなせるような施策を考えることになります。

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