製造業を取り巻く厳しい経営環境の中で、高い次元のQCDを達成するにはITツールによる業務支援が不可欠である。本連載はPLM、ERP、SCMなど製造業向けの代表的な業務支援ソフトウェアの特徴をレポートしていく。
最初の製品がリリースされたのは、いまから17年前の1991年。製造業向けデータ管理ツールの草分けといえるNECのObbligato IIは、日本ならではのものづくりに対応して独自の進化を続けている。本稿では2008年11月11〜13日に東京・国際フォーラムで開催された「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2008」で行われたワークショップ「Obbligato IIによる最新PLMソリューションのご紹介」の内容を中心に、NECのPLMソリューションの概要を紹介する。
リーマン・ブラザーズの経営破たんをきっかけに始まった世界的な不況は、トヨタの大幅減益予想や米自動車メーカーのビッグ3を襲う経営危機など、日本のみならず世界の製造業に暗い影を落としている。従来、製造業の経営課題は開発期間の短縮、多品種化、グローバル展開などであったが、2009年以降は世界的な景気後退による需要の落ち込みが経営の重しとなるだろう。ものづくり企業各社は生き残りをかけて、これまで以上に製品の競争力を高めていかなければならない。
製造企業の経営層が重視する課題は、数年前のコスト削減重視から収益性の向上や新製品開発にシフトしており、製品ライフサイクルを通して一元的に情報管理を行うPLMソリューションの重要性はより高まっていると、NEC 第一製造システム事業部 マネージャー 相馬史郎氏は指摘した。
NECが独自に行った調査によれば、PLM実現のための施策として重視する項目は、1997年に上位を占めた文書管理系(2次元CADデータ管理、ワープロ・表計算データ管理、手描き図面・文書管理)は2008年時点で2位に後退し、代わって「統合BOM管理(システム連携含む)」が1位になっている(表1)。また、3位のプロジェクト管理、4位のコストマネジメントが新たにランクインしている。この10年でPLMに期待する改善内容が、データ管理から業務改善に変化していることが見て取れる。
本稿では、Obbligato IIについて以下の3つの側面から検討してみる。
純国産のPLMソリューションであるObbligato IIの特徴は、日本独自の慣行にきめ細かく対応するBOMのユニークさといえるだろう。製品ライフサイクルを回すには、エンジニアリングチェーンの各フェイズに合わせて用途別のBOMが必要になる(表2)。
エンジニアリングチェーンの各フェイズ | 関連するBOM |
---|---|
企画 | 企画BOM(ドキュメント管理) |
設計 | 設計BOM(CAD/CAEデータの管理) |
生産・生産技術 | 生産BOM(ERP連携) |
調達 | 調達BOM(SCM連携) |
保守 | サービスBOM(交換部品の管理) |
表2 エンジニアリングチェーンの各フェイズと関連するBOM |
それぞれのBOMを部門ごとのデータベースとして構築してしまうと、設計変更が発生したときに、正しく修正個所を反映できないといった問題が生じる。間違った情報で生産工程の後半まで進んでしまうと、手戻りのコストや時間の浪費などによって、製品の競争力が大きくそがれてしまう。エンジニアリングチェーンごとに情報を管理する分断状況から、すべてのものづくり情報を一元的に統合管理しようというのがPDMといわれるITシステムの基本コンセプトである。
Obbligato IIにおける統合BOMデータベースでは、用途別のBOMを1つのデータベースに格納し、各BOM間の関連を定義しておく。こうすることで、例えば設計情報に変更が加えられた場合でも、生産BOMにその変更情報が自動的に反映される。間違った情報で工程が進んでしまい、後で手戻りが発生するといった損失を減らせる仕組みだ(図1)。
設計BOMと生産BOM間の設計変更情報の共有機能は各社からリリースされているPLM製品では必ずといっていいほど実装されている。Obbligato IIの特徴は用途別のBOMと外部のシステム、例えばERPとの連携を容易にする機能が備わっている点だ。PLMシステムの内部で設計BOMと生産BOMを連携させていても、実際に生産工程に入れば必要な材料や部品などを外部から調達したり、製造コストを見積もったりといった業務はERPを使用するケースが多い。ところがPLMとERPは異なるIT製品なので、データの受け渡しを自動化したければ手組みのシステムを開発するか、あるいはその部分だけ人手に頼るのが一般的だろう。
Obbligato IIを使ったERPとの連携は、ユーザー事例として紹介された。そこでは、Obbligato IIに持つ設計BOMと、外部システムであるERPで保持する生産BOMとの中間に、“(仮)生産BOM”を作り、これをObbligato IIで管理するというシステムだった(図2)。
(仮)生産BOMとは、設計BOMのデータをERP側の生産BOMに流し込むための中間フォーマットのような位置付けだ。異なる構造や属性といったデータ差異を吸収する(仮)生産BOMを作成するに当たって、Obbligato IIに専用エディタが用意されている。ユーザーは最初にこのエディタを使って(仮)生産BOMへの展開を定義しておけば、設計BOMの変更は自動的に(仮)生産BOMへ反映され、それをERPへ転送すれば常に最新のBOM情報を使った生産が行える。
このほかにも、設計・生産連携の事例として、1つの設計BOMを基に、複数の生産拠点に向けて個別の部品構成を定義した生産BOMへ情報を展開する「1対N」のマッピングも紹介された。このように、任意のBOMを定義して、それぞれの連携を柔軟に行えることが、Obbligato IIの特徴といえるだろう。
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