自動車、家電、情報機器などを製造する大手企業にとって、すでにPLMソリューションの導入はほぼ完了しているといわれている。今後PLM市場の主戦場は、大手OEMメーカーを頂点としたサプライチェーンの1次ティアから下の準大手や中堅企業に移ってきている。売り上げ規模で1000億円前後のこうした企業群は、PLMのようなデータ管理・情報共有のためのITシステムを導入しなければ、国際競争に勝ち残れないのは異論のないところだろう。しかし、大手製造業と違って中堅製造企業にはしっかりとした情報システム部門を持たないところも少なくない。PLMは必要でも、複雑なカスタマイズやシステム構築まで手が回らないのが実情だ。
こうした状況を踏まえて、PLM製品ベンダ各社は過去の導入実績からベストプラクティスを抽出し、それをテンプレート化してPLM製品に組み込んだ「初期の導入コスト削減機能」を実装する傾向になっている。こうしたテンプレートを中心にした廉価版をフル機能PLM製品とは別ブランドとして提供するベンダもある。NECは1つのPLMブランドで大手から中堅までをカバーする製品構成であるため、テンプレート機能はObbligato IIの基本機能として提供されている。
「普段、製造業のお客さまに接している中で要望として寄せられるのはBOM管理、プロジェクト管理、コスト管理、セキュリティの4つです。これらの業務改善に当たりNECではObbligato IIというITツールの持つ機能を利用するよう提案してきたのですが、ビジネス戦略に関するコンサルティングからITツールに落とし込む際、その中間に当たる“つなぎ”の部分が不十分だったという反省がありました。そこで、NECのお客さまの事例で非常に成功されている要素をまとめて『産業用別PLMソリューション』を提供することにしました」(相馬氏)。
最初に投入されたのが「産業機械向け」のソリューションだ。従来は個別にカスタマイズしていた内容をパッケージ化し、上位のコンサルティングから特定業種向けにあらかじめ定義されたソリューションセット、そして情報システムの構築までを一括で提供する。今後は「電気精密」「自動車部品サプライヤ」を順次投入する予定だという。
「従来もこのようなITテンプレートを提供することはあったのですが、それに伴って業務改革も必要になります。ところが業務改革を行うコンサルタントのアウトプットが、なかなかITシステムに落とし込めない。例えばコンサルティングは他社が行い、NECがシステムインテグレーションを受注したとすると、コンサルタントのアウトプットが漠然とし過ぎているので、NECのシステムエンジニアが再度要件定義をしなければならないなど、ちぐはぐな状況が見られました。そこでコンサルティングからITまでセットにして提供するソリューションを立ち上げたのです」(相馬氏)。
この手法は海外PLMベンダでも多く取り入れられているが、Obbligato IIの強味はやはり、日本の製造業から抽出したベストプラクティスという点だろう。また、IT企業として、ソフトウェアからハードウェアまで多くの自社製品を抱えるNECの強みも発揮される世界だ。
Obbligato IIの販売にかかわるスタッフ(NEC本社とグループ企業を含む)が約700人、その内40〜50人はコンサルティングを行う能力があるという。この販売力も大きいだろう。逆に販売パートナーは現在、キヤノンITソリューションズの1社に絞っている。これは、単にパッケージを販売するのではなく、きちんと業務支援ソリューションとして付加価値を含めた販売を行いたいという意思からだという。
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長らく日本の製造業とともに歩んできたIT企業らしく、日本ならではのものづくりに特化して完成度を高めてきたObbligato II。グローバル戦略に向けて搭載された独自のセキュリティ機能が、今後どれだけ海外市場で受け入れられるか注目していきたい。
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