京大の車両のこだわりポイントは、「アルミスペースフレーム」と「カーボンカウル」だ。軽さや強度と合わせ、形状の美しさにもこだわっているそうだ。
フレームをアルミ製にすれば、車両を軽量化できる。ただ要求強度を保ちつつフォーミュラの規格に合わせようとすると、メインフープは鉄にするしかないのだという。アルミパイプと鉄のフープを溶接する必要があるが、そこで位置合わせ治具が必須となる。京大は毎年、この治具を試行錯誤しているのだそう。またドライカーボンの成形もチームで行っているが、その技術も年々向上しているとのことだ。
また、去年の白基調とは雰囲気が変わり、今年は濃紺色のボディだ。これが、ただの塗装ではない。
「今回のカウルは漆塗りです。京都らしさを前面に押し出してみました」と京都大学のチームリーダー 鯨岡絵理さんは話した。
漆塗りは強く、ひび割れや剥離(はくり)といったことは起こっていないという。 ただし、一部がはがれたときにその周囲も一緒にはがれやすいという欠点はあるようだ。
オートクロスまで、走行は順調だった。しかしながら、4日目のエンデュランスではリタイアとなってしまった。前半は好調な走りだったのだが、第2走者にチェンジした4週目でインジェクタから燃料が漏れ、車両が停止してしまったのだ。
その原因について鯨岡さんは、「クリティカルな故障が起こったわけではなかったんです。整備の際の組み付けミスという単純なヒューマンエラーに、車両構造の根本的な問題が重なることで起こったものでしょう」と説明する。
燃料供給ラインの一部がしっかりと挿入されていなかったそうだ。そしてラインのステーがエンジンのヘッド部にくっついてしまった。走行練習の前に組み付けの確認を行ったのが最後、以後の走行のたびに、ステーがエンジンの振動でがたがたと揺さぶられ、ラインの小さな緩みがだんだん大きくなっていく。そしてエンデュランスで、ついに燃料が漏れてしまった。
「設計にしろ、製作にしろ、知識や技術の継承が私たちのチームでも課題となっています。今回のような問題の1つ1つをしっかりと後の世代へ引き継いで、二度と同じような問題が起こらない体制を作っていきたいです」と鯨岡さんは今後の意気込みを語った。
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⇒ | 京都大学「Project KART」 |
「大会の参加は今年で5回目です。昨年はターボチャージャーを搭載し低回転時のトルク性能を追及しました。今年の車両コンセプトは『コースでの速さ』です」と国士舘大学のチームリーダー 小田 博之さんは話す。
トルク性能を維持しつつも、より高回転域までパワーバンドを維持できるように「ウェストゲートバルブ」の搭載を行った。高回転まで出力を上げることが可能となり、低回転域のトルクも持ち合わせたパワー特性を実現したという。
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⇒ | ウェストゲートバルブとは?(トラスト) |
シャシーでは、低重心化を今年から徹底的に行ったそうだ。ドライバーポジションも30mm以上下げた。「ドライバーポジションの重心位置を実際に測定し、その数値的な裏付けを基に部品を配置しました」と小田さんは説明する。
また、フレームではパネルなどのエクステリア(外装)をフレームの剛性の一部として活用したという。
「パネルをリベット止めにすることで剛性が3割増しになることが実験により分かったので、パイプ本数を減らし軽量化を行っています」(小田さん)。
国士舘大は前大会では2位で、今大会でも総合優勝は十分圏内だといえた。しかし今回、エンデュランスで車両が火を噴いてしまう(詳細は前回を参照)というアクシデントに見舞われてしまい、泣く泣くリタイアとなった。総合得点でダメージを受けて残念な結果に。
「来年は絶対に完走しますので、どうか応援をよろしくお願いします。今度はぜひ、もっといい雰囲気で(インタビューに)お答えしたいですね(笑)」と小田さんは最後に苦笑いした。
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⇒ | 国士舘大学 K-Racing) |
「大会中は何もトラブルがなかったし、ちゃんと完走して、エンジンも素直に動いてくれました」と金沢大学のチームリーダー 斉藤浩一郎さんは話した。
そのかいあってか、今回も総合3位にランクインした。
「結果は嬉しいです。しかし、過去(第4回)に優勝経験があるチームとしては、この結果は悔しくもあります」(斉藤さん)。
今回、金沢大学は“自作の”ECU(車両制御ユニット)を日本大会で初めて搭載した。先輩の代から基礎研究が始まって、車両へ実装に至るまでに4年間かかったそうだ。ハードウェアだけスポンサー企業からもらい、あとは基板から何まで自分たちで製作したとのことだ。
昨年までは汎用のECUを搭載していたが、それにコストが25万円ぐらい掛かっていた。それが今回自作したことによって約2万円までコストを落とした。この点はコスト審査でかなり評価されたと斉藤さんは述べた。そして何より、機能を自分らでカスタムできるのが魅了だとのことだ。
また電子制御式可変翼ターボチャージャー(VNT)を搭載している。排気側にあるノズルの開度により排気の流速をコントロールし、過給圧を変化させるもの。これにより、小型タービンの長所である低回転での素早い過給圧の立ち上がりと大型タービンの長所である高回転での高効率を実現できるという。
「このターボチャージャーは、(先述の)自作の制御ユニットを用いて制御しています。過給圧をある程度自由に調整できるため、トルク曲線を“作る”ことが容易になりました。今年度は昨年度と同様、フラットトルクを目標に開発を進めました」と同大学チームのテクニカルディレクター 福井龍也さんは説明する。
4500rpmから8000rpmで、平均18%のトルク向上とフラットトルクを達成したという。
先述の静岡理工科大のように、金沢大もMRダンパを搭載している。
「搭載の目的は、ドライバビリティの向上です。このダンパを搭載することによって劇的にタイムが上がることはありません。ステアリング特性を変化させて、ドライバーにとって乗りやすい車両にします」と福井さんはいう。 要は、静岡理工科大が平たく説明していた話と同様。ただし、両チームで大きく違う点がある。金沢大学が使用しているのは、自作品だ。
昨年度から低重心化を行うため、ドライサンプ方式(別途、オイルタンクを設ける)を採用しているという。これでオイルパン(燃料を受けるトレイ状の部品)を浅くしようというわけだ。
さらに今年度からは、クランクケース(クランクシャフトを配置する部品)下部の切除とオイルパンの薄型化を行った。オイルパンは、昨年度使用していた厚さ23mmのアルミ削り出し品から肉厚6mmのアルミ板製に変更したという。
「純正のオイルパンをカットするチームは多くありますが、クランクケースまでカットするチームは世界でも珍しいと思います」と福井さん。
これらの改良により、エンジンの搭載位置を38mmも低下させることができたそうだ。
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