タイミングベルトが10万kmに達する前に破断してしまう原因としては、以下が考えられます。
ここまで説明すると、タイミングベルトを使用することによるデメリットの方が大きいような気がしてくるかもしれませんが、
といった要素を兼ね備えた新たなチェーンがなかなか作れなかったために、タイミングベルトを使用するしか選択肢がなかったともいえます。
それでもローラーチェーンを使用するよりもタイミングベルトの方がトータル面で優れていると判断されたため、「定期的な交換」を条件に採用していたのです。
余談になりますが、フェラーリの一部車種はタイミングベルトの交換時期が極端に短いことで非常に有名です(メーカー指定は2年、2万kmで交換)。さらにエンジンレイアウトの都合で、タイミングベルトの交換時にはエンジンを車体から降ろす必要がある場合もあります。
1990年代後半ごろから、ついにタイミングベルトに代わるタイミングチェーンが登場しています。
写真5のサイレントチェーンがタイミングチェーンとして採用された最大の理由とは、
など、非常に理想的といえる要素を兼ね備えていることです。
もちろんタイミングベルトに比べるとコスト的には不利になるように見えますが、“エンジンの小型化が図れることによる商品力アップ”や、“タイミングベルトの交換が不要となることによる維持費の削減”などを踏まえれば、逆にコスト的にも有利になると考えられます。
現在販売されている車の大半はタイミングチェーンを採用しています。先述したようなメリットを踏まえれば当然ともいえるでしょう。
いまも、タイミングベルトを使用しているエンジンを搭載した車は存在します。その一番の理由とは、タイミングチェーンを採用した新エンジンを開発するよりも、既に仕様が熟成されたタイミングベルトを採用したエンジンを流用した方がコスト面で有利ということです。特にモデル末期の車なら、あらためて新エンジンを導入するよりも過去のエンジンを据え置きで流用した方が、コスト面で圧倒的に有利です。
現在は、タイミングベルトからタイミングチェーンへの変遷の真っただ中といえます。あと数年したらほとんどのエンジンがタイミングチェーンになっているでしょう。
今回の解説をまとめますと、時代の技術力に合わせて、
タイミングチェーン(ローラーチェーン)⇒タイミングベルト⇒タイミングチェーン(サイレントチェーン)
という変遷が起こったことになります。
この変遷をよく見てみるとあることに気が付きます。それは、
「過去、NGとされた部品を最新技術により作り直すことで、最高の部品が生まれた!」
ということですね。
ほかの部品でも共通していえますが、技術力がネックとなって採用されなかったり、ほかの代替品に置き換えられ消滅してしまったりしたものは多々存在します。それらをあらためて徹底的に見直し、最新技術を駆使して作り直せば、いままでにない最高のものが生まれる可能性がまだまだあるということです。
次回は「エンジンのタイミング」について詳しく解説する予定ですのでお楽しみに! (次回に続く)
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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