2008年6月25日から27日までの3日間、東京ビッグサイトにて「第19回 設計・製造ソリューション展(以下、DMS展)」が開催された。今回のDMS展では、技術伝承ゾーンが新設され、昨今の製造業における人材不足などの問題や、それに対する現場での取り組み方が垣間見えた。多くの来場者でにぎわう中、新人記者の見た今年のDMS展を報告する。
本特集では第19回DMS展開催直前より、展示会主催のリード エグジビション ジャパンをはじめ、出展企業数社の事前インタビュー記事やニュース記事を公開してきた。今回はその最終章として、DMS展当日のレポートを前編、後編でお送りする。まずは前編にて、新設された技術伝承ゾーンブースと、CADブースを中心にお伝えしたい。
第19回となる今回から新たに追加された技術伝承ゾーン。人材不足が懸念される中で、日本が誇るモノづくり技術をこれからの若い技術者にどう伝えるか。
その問題を解決すべく、昨今、各企業が注力しているのが技術伝承ツールだ。視覚的にも分かりやすい3次元モデルを含んだマニュアルや、ネットワーク対応の企業内共通ツールを導入する企業が増えている。
それらのツールを制作するのは、マニュアルに掲載する画像や動画をすべて自社で制作する企業や、紙でのマニュアル制作を専門としてきた制作会社だ。
技術伝承ツールを活用することで、現場の技術者の暗黙知とされている技術は社内を超え、さらには国境をも超えたグローバルな技術伝承、そして人材教育の可能性が広がる。また、紙の電子化によるコストの削減や、情報共有することでのリードタイムの短縮化、業務の効率化など、製造業の永遠の課題への解決策としても期待される。
本稿では、技術伝承ゾーン出展企業の中から、ユーザー企業のニーズに合わせた電子マニュアルの制作を行う企業2社と、ユーザー自身が編集を行うツールを提供する企業3社を紹介する。
アクシスは、3次元CADデータからWeb対応の電子マニュアルまで、ユーザーの要望に合わせた資料を制作する。自動車部品や工作機械の図面、パーツの組み立て手順のアニメーション、さらにはテキストの自動読み上げ機能など、多種多様なメディアに対応。会場ではその1例としてスプリングバルブの電子マニュアルを展示していた。
製品概要の部分では、スプリングバルブの外観と断面図を3次元モデルで紹介(写真1)。3次元CADデータ、テキストなどすべて同社が制作している。ユーザーの要望があれば、他言語での表記も可能だという。
製品の仕様と動作紹介の部分では、バルブのレバー動作をアニメーションで表現(写真2)。レバーを上げ、油圧をポンプで吸い上げるという基本概念を、マウスポインタを動かしてもらうことで、より現実に近い動作を伝えている。
さらに、紙では1枚で収めることが難しいバルブ全体の分解図を、部品表と対応させて紹介(写真3)。デジタルならではのメリットを活用している。
例えばバルブが故障した場合、その原因となった部分をクリックすると、その部分の色が変化する(写真4)。故障の原因がバルブ全体のどこに位置し、どの部品が関係しているのかをひと目で把握できる。また、原因となる部品の番号や名称、相関関係も分かるため、部品を発注する際の手間も省けるという。
「部品の名称や相関関係などは紙でも確認することができます。しかし、自動車などの部品数が多いものになると、資料は数ページにもなります。そうした場合にデジタル化での検索性が非常に重要になってきます」(説明員)。
また、実際に分解しなければ部品を交換できないような内部の故障の際にも、どういう順番で、どの部品を交換していけばよいかなどを3次元モデルで確認しながら行えるため、新人研修などでも活用できるという。
さらに、デジタル化したデータは携帯電話にも配信が可能。画面がある製品であればネットワークを介して“いつでもどこでも誰でも”利用できるという。テキスト自動音声で読む機能もある。まさにマルチメディア対応のマニュアルといえるだろう。
「テキストだと、その言語を知っている人しか理解できないため、翻訳などの言語展開をしなくてはなりません。その点、動画や画像など視覚的に得る情報は万国共通なので、ここでどれだけ分かりやすくするかにより、伝わり方が変わってくると思います。当社はそこに力を入れていれています」(説明員)。
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コアプランニングは、動画作成も含めマニュアル作成のすべてを自社で行うという制作会社だ。制作物は同社としての決まったフォーマットはなく、ユーザー企業へのヒヤリングを重ねることで、個々のオリジナリティを持たせたユーザー独自のマニュアルを制作する。
制作事例としてはキャラクターを創造したエンターテインメント性の高いものもあれば、教育的な面を強く持たせたものもある。例えば、自動車部品メーカーでの新人教育トレーナーの育成を目的としたマニュアルでは、プログラムの様子をストーリー化した映像教材を制作。この教材により、受講者からは研修時の緊張がほぐれ、活発な討論や発表が行われるようになったという。
また、主幹工場の生産品質と生産性向上を目的とした「品質会議」を全社共有できるようなマニュアル依頼では、品質会議の進め方を伝えるだけでなく、その根幹にある理念を伝えることが定着のために重要と判断。ドラマ性のある劇画での表現で会議の流れを解説した。これにより、管理職やベテラン社員だけでなく、新人社員にも会議の目的を伝えることができ、現在ではすべての工場で品質会議を実施しているという。
「企業の社風や生産ノウハウは個々の企業により違います。それらを伝えるマニュアル類こそ、オーダーメイドであるべきだと考えています」(説明員) 。
同社はこれまで生産管理部門から設計開発部門、営業企画部、広報部まで、あらゆる部署のマニュアル類を制作してきた。今後もユーザー企業の「何を伝えるべきか」の要点を正しく読み取り、「どう伝えるのが効果的か」まで把握したうえで分かりやすく教えやすいマニュアル制作を行っていくという。
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