カーエレの発展に欠かせない“5つのエポック”知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(2)(3/4 ページ)

» 2008年04月25日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]

第3のエポック 〜ICの出現〜

 このような状況の中、トランジスタを集積した「アナログIC(Integrated Circuit)」のオペアンプ(演算増幅器)が生まれました。

 オペアンプは、英語で「Operational Amplifier」と表記され、日本語では演算増幅器と訳されています。オペアンプは当初、四則演算や微積分のような演算を行うアナログ計算機のための回路として開発されました。ちなみに、演算増幅器の“演算”という言葉もここに由来しています。

 オペアンプの最大の特長は“差動型回路”にしたことです。トランジスタ1とトランジスタ2の温度係数が等しければ、温度変化は打ち消し合って出力に現れなくなります。このように両方のトランジスタの共通の変動は相殺されるため、例えば電源電圧の変動やノイズにも強いものとなります。そのほか優れた特長がいくつもありますが、詳しくは次回で説明します。

 以上のようにオペアンプは“温度やノイズに強い”ということで、カーエレクトロニクスとして自動車のいろいろな機器に使用されました。その事例として、ここでは“電圧レギュレータ”(注)について解説します(図5)。

電圧レギュレータ 図5 電圧レギュレータ
※注:電圧レギュレータとは、接続されている負荷抵抗が変化しても一定の電圧を負荷に供給できる回路のことをいう。


 図5のA点の電圧は「ZD(ツェナーダイオード)」(注)で、一定の電圧は「Va」です。一方、「Vb」は出力電圧「Vo」の抵抗分割による電圧で「Vo」に比例します。Va>Vbのときはオペアンプの出力電圧は小さくなり、トランジスタを介して出力電圧Voを大きくし、Va<Vbのときにはオペアンプにより出力電圧Voは小さくなります。従って、常にVa=Vb、つまりVoが一定になるように制御されます。このような電圧レギュレータは制御回路によく使用されました。そして、現在ではIC化されて自動車に搭載されているほとんどのECU(Engine Control Unit)に使用されています。上記は一例ですが、いろいろなセンサの増幅や波形処理をしたり、設定値と比較するコンパレータ(比較器)として広く使用されています。

※注:ツェナーダイオードとは、PN半導体に逆電圧を掛けるとほとんど電流は流れないが、電圧を上げていくと急に大きい逆方向電流が流れる現象「ツェナー効果」を利用して、電圧を一定に保つ作用をするダイオードのこと。


 次に紹介するのは、「デジタルIC」です。筆者がこの業界に入ったころ、カウンタ(注)用として図6に示す“双安定マルチバイブレータ”を作っていました。

※注:カウンタとは、入力信号が入るごとに内容を1つずつ増加(減少)する構成にしたもの。パルスの数を数える回路のことをいう。


 当時、隣で点火実験をするたびに誤動作をしてしまい苦労した覚えがあります。ちなみに、その誤動作の原因とは図6のコンデンサ「C」と抵抗「R」による“微分型トリガー”(注)によるものでした。

双安定マルチバイブレータ 図6 双安定マルチバイブレータ
※注:微分型トリガーとは、CR微分回路により作られたトリガー信号のこと(一般用語としてあるかどうかは不明)。論理ゲートがなかった時代において、トランジスタによる手作りのフリップフロップ(FF)などは、このトリガーがよく使用された。現在のトリガーはパルスの立ち上がりや立ち下りなどのクロックパルスによるトリガーが一般的である。


 こうした課題を抱える中、登場したのが“TTL(Transistor-Transistor_Logic)”です。このTTL論理回路によりCRを使用しない構成にして、クロックで動作させることで誤動作は大幅に少なくなりました。また、1つのパッケージに複数のロジック回路が入っているという点が、デジタルICの大きな特長です。例えば、TI社のSN7400は2入力NANDゲートが4個入っていますし、SN74161は2進数で4ビット(4けた)も入っています。これにより、デジタル回路を製作する時間や回路スペースが大幅に減少しました。また、ノイズマージンもありましたので信頼性も向上しました。こうして、デジタルICは自動車のドアコントロールやオートマチックシートベルトなどにも幅広く採用されるようになりました。

 しかし、バイポーラ(注)のオペアンプならまだしも、TTLのICを多数使用すると、相当な消費電力となり自動車のバッテリには大きな負担となります。また、IC自身の発熱による放熱対策についても検討する必要が出てきました。特に、デジタル時計や利便性向上のための機器には、キースイッチを切った状態でも動作する必要があり、TTLで実現するのは到底無理でした。

※注:バイポーラとは、2つの極を持つという意味。PN接合のように電荷担体が多数キャリアと少数キャリアとからなる素子をいう。一般的にトランジスタといったら“バイポーラトランジスタ”を指す。


 そこで、次に注目されたのが“FET(電界効果型トランジスタ)”のIC化です。消費電力が少ない論理回路を実現できる“CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)”の誕生は、デジタル時計や電卓の普及を加速させました。ここで、先ほどのTTLとCMOSの特性を比較してみましょう(図7)。

消費電力の比較 図7 消費電力の比較

 縦軸は1ゲート当たりの消費電力です。これをみると随分CMOSの消費電力が少ないことが分かると思います。自動車にもタイマーやデジタル回路を必要とするところは数多くあります。例えば、昭和40年ころの自動車用時計は時刻を合わせてもすぐに狂ってしまい、あまり当てにはできませんでしたが、CMOSのおかげで正確な水晶振動子を使えるようになり、正確な時を刻むようになりました。また、盗難防止装置はキースイッチを切っても動作しなければなりませんので、このあたりもCMOSの得意とするところです。

 以上は、CMOSのデジタルICの話ですが、CMOSにはオペアンプもあります。このオペアンプは当然消費電力は少なく、入力インピーダンスが大きいのが特長ですが、オペアンプとしてはバイポーラオペアンプに劣る特性もありますので、ケースバイケースで使われています。筆者は、この「ICの出現」を第3のエポックと位置付けています。(第4のエポックへ)



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