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「タイマーで故障を偽装し部品を売る」島津製作所子会社による悪質不正行為の全容品質不正問題(2/3 ページ)

島津製作所は、同社子会社の島津メディカルシステムズで行われていた保守点検業務に関する不正行為の内容について、外部調査委員会による調査結果を発表した。島津メディカルシステムズ熊本営業所では、タイマーにより意図的に装置が故障したかのように見せかけ、保守部品を売るという不適切行為が行われていたことが2022年9月に発覚している。

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不正の発生要因

 調査報告書では、不正の原因や再発防止策についても言及している。不正が発生する要因としては「動機」「機会」「正当化」の3つの観点で分析されるケースが多いが、今回はそこに個人の属性を踏まえた「実行可能性」も含めた4点での分析が行われた。

不正が生まれた「動機」

 「動機」として、外部調査委員会が結論付けたのが、業績達成への過度なプレッシャーだ。

 前提事情として、本件不正行為により顧客に生ずる直接的な被害額は大半の事案で100万〜300万円程度と相当に多額であるが、不正行為者らは本件不正行為によって直接的な金銭的利益を個人的に得るわけではない。

 それにもかかわらず、これらの不正行為者らが本件不正行為に及んでまで業績目標を達成しようとした要因は、(i)島津メディカルにおいて技術部門に課されていた業績目標の設定方法等に不合理な点があった上、(ii)殊に九州地区の一部地域においては、各営業所に厳しい業績目標が割り当てられ、その達成がときには強い業務上の圧力を伴って求められ、(iii)不正行為者らがこうしたプレッシャーにさらされていたことがあったのではないかと指摘できる。(調査報告書から引用)

 島津メディカルにおける技術部門の役割は、もともとは医療機器などにダウンタイムを生じさせないように保守を行ったり、故障などの不具合が生じた場合に対応したりする部署だった。そのため売り上げ目標などは設定されていなかった。しかし、九州地区における組織変更の際に技術部門にも個別の業績目標が設定されるようになった。当初は保守契約のみの目標だったが次第に修理や点検、営業部門からの請負、部品販売の業績目標項目が設定されるようになったという。妥当性がない前期比増の目標が毎年設定され、現場のサービス技術者は苦しんでいた背景があった。

 さらに、九州地区の営業所ではこれらの「無理な目標」の達成に対して、強いプレッシャーがかけられていたことも確認できた。そのため、一部のサービス技術者が事後交換のために部品の故障を偽ろうと本件不正行為に及んだとしている。

不正につながる「機会」

 不正は動機があってもその機会がなければ生まれない。その「機会」として、外部調査委員会は顧客や他の従業員などに発覚したり内部通報されたりする恐れが非常に低かったということ挙げている。

 今回の不正行為は、通常の保守点検などの作業に紛れ込ませて、タイマーを設置し、作動後にこれを撤去するという点が主なもので、その作業自体は比較的短時間に、かつ、目立たない形で実行可能であり、もともと発覚リスクが低い。さらに、これら外部のサービス技術者による訪問や作業の際には、医療機器が使用できなくなるため、通常の診療業務の支障にならないよう、診療時間外や休診日に行われることが多い。そのため、結果として作業は人目が少ない機会に行われることが多くなる。

 また、顧客は島津製作所の医療機器を導入/設置しており、島津メディカルと保守契約を締結している関係にもあることから、島津メディカルのサービス技術者に対して深い信頼を寄せている。不具合などが発生した場合にも他社に相談するのではなく、島津メディカルの営業所に連絡をするため、タイマーを仕掛けているところに第三者が介入し、不正が見破られる可能性が低い。不正の「機会」が容易に確保可能であったといえる。

 加えて、内部統制が機能しがたい環境でもあった。島津製作所および島津メディカルでは内部統制システムが全般的には構築/運用されていたが、今回のような不正行為やその兆候が過去に認識されたことはなく、同業他社での発生もなく、具体的なリスクとして想定されていなかった。

 また、嫌疑濃厚者以外のサービス技術者の一部も不正行為を直接的に認識していたものの、不正のあった地域では人事異動の流動性が低く、営業所長が自ら不正を働いており、報復人事がされるのではないかといった危惧が蔓延(まんえん)しており、不正行為が見て見ぬ振りをされ続けたとしている。

不正を「正当化」する思考

 不正を実行に移すためにはこうした不正行為を自己内で正当化する理由付けが必要になる。その「正当化」については、「動機」と同様「過度な業績目標を達成するためには不正を働くしかない」という思考と、さらに「患者の健康に影響を与えないからよい」ということを逃げ道としていたと、調査報告書では指摘している。

 嫌疑濃厚者の心理状態も多様であり、不合理な弁解を繰り返したり、ヒアリング自体を拒否したりした者もいれば、本件不正行為が顧客の信頼を裏切る詐欺的行為であることを自覚し、深く良心の呵責を感じていた者もいるようであった。しかし、そのようなサービス技術者も結局は、上司からの過度な業績目標達成圧力から逃避するには本件不正行為に及ぶほかないという思いや、患者に深刻な健康被害が生じないような方法を選択しているという思いのもと、本件不正行為に及んでいたようである。(調査報告書から引用)

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