「タイマーで故障を偽装し部品を売る」島津製作所子会社による悪質不正行為の全容:品質不正問題(3/3 ページ)
島津製作所は、同社子会社の島津メディカルシステムズで行われていた保守点検業務に関する不正行為の内容について、外部調査委員会による調査結果を発表した。島津メディカルシステムズ熊本営業所では、タイマーにより意図的に装置が故障したかのように見せかけ、保守部品を売るという不適切行為が行われていたことが2022年9月に発覚している。
不正を結局行ってしまう「実行可能性」
今回の不正はここまでの「動機」「機会」「正当化」の3つの観点だけで考えると、他の地域でも不正が起こっても不思議ではない状況だった。しかし、実際には不正が発生したのは九州支店の一部地域に限定されていた。3要素による「不正の扉」が組織内に存在したとしても、それだけでは不正が実行されるとは限らず、最終的に実行者が扉を開けて不正に及ぶかどうかは、個人レベルでの能力や性格による「実行可能性」にも依存するとしている。
不正があった熊本、宮崎、鹿児島、長崎でも、不正に手を染めたサービス技術者もいれば、不正を実行せず、あるいは不正を告発したサービス技術者もいた。島津メディカルのサービス技術者の多くは、本件不正行為を実行することなど思い付きもせず、あぜんとしたようである。なぜこのような愚行にでたのか想像もできないとの声も多かった。(調査報告書から引用)
具体的にはその「実行可能性」として外部調査委員会が指摘したのが以下の3点だ。
- 社内的に影響力ある地位や職能を有していたこと
- 内部統制の限界を見抜き、かつ長期間不正は暴かれないという自信、ストレス耐性を有していたこと
- 倫理観を著しく欠いていたこと
今回、不正に手を染めた嫌疑濃厚者の大半は営業所長であり、管理職が自ら不正を働いたことから、営業所内で監視が効かない環境が生まれていた。管理職が倫理観を欠き、さらには相互監視を受けないまま社内的に影響力のある地位や職能を有してしまうと、個人レベルでの実行可能性が備わってしまう。また、今回の不正行為は長期にわたり、繰り返し行われてきたことから、不正行為を直接目撃したり、そのうわさを耳にしたりしたことがある島津メディカルの従業員はそれなりの人数がいた。その中でも不正を繰り返せる人間性の問題などもあったとしている。
本件における不正行為者は、部下や同僚に発覚したとしても、内部通報等をしないであろうという内部統制の限界に気づいており、また、いつ発覚するか分からない不安定な状況にもかかわらず不正を行い続けることができる、一定のストレス耐性と不誠実さを有していたと考えられる。他者を引き込み、不正行為に加担するよう強要できる傲慢さや不誠実さなどの人格面での特性もあったはずである。逆に、内部統制の限界に気づいていても一定のストレス耐性と不誠実さを有していない者は、不正行為にまで及ばなかったと考えられる(調査報告書から引用)
不正の再発防止策
調査報告書では最後に島津製作所と島津メディカルのプロジェクトメンバーとの議論を経て、再発防止策についても提言している。具体的には「ミッションの定義と業務評価体系の再設計」「管理職の強化」「内部統制機能の強化」の3つを柱として進めていくべきだとしている。
今回の不正の動機が「サービス技術者に対する業績評価指標が合理性を欠いていたこと」によることから、これらを再設計する必要性を訴える。具体的には、まず目下の対応として、業績目標から部品販売を除外し、サービス技術者の評価においても部品販売の実績を考慮外とする。現状では事前交換と事後交換を区別することなく、両者をまとめて部品販売として業績目標の設定をしており、サービス技術者がコントロール不可能な事後交換が評価項目となってしまっている点で、合理性を欠いているためだ。
その上で、組織や個人のミッションを明確にし、その期待役割に即した業績評価や業務評価の体系を再構築する。島津メディカルがいかなるミッションを担うのか、技術部門のミッションは何か、支店長や副支店長、ブロック長、営業所長などの管理職クラスのミッションは何か、サービス技術者のミッションは何か、それぞれの期待役割を明確にし、その期待役割に即した合理的な業績評価や業務評価の体系の具体化に取り組む。
実態と乖離した目標設定となっていないか、目標達成のための過度な圧力が生じているようなことはないか、従業員の意識調査の結果はどうかなど、取締役会や経営陣幹部として運用状況をモニタリングすることも必須である(調査報告書から引用)
管理職については、コンプライアンス意識の醸成や内部統制の知識についての研修を充実させる。内部統制機能の強化については、事業部門、管理部門、内部監査の3つのラインでのモニタリング強化を進める。合わせてITへの投資も強化する。現状では、販売管理システム、業務管理システム、在庫管理システム、経費システム等が完全に相互連携しているわけではない。これらのシステムが連携することで、現場で何が起きているのか、直ちに情報を収集することができ、経営分析や不正の兆候探知のために活用できるとしている。
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