スバルのADAS高度化の主役はステレオカメラ、車台にもまだ伸びしろ:安全システム(2/2 ページ)
SUBARU(スバル)は2020年1月20日、東京都内で記者会見を開き、中長期的に取り組む環境技術や安全技術の方針を発表した。あらゆる環境下で誰もがコントロールしやすく、意のままに操れることを目指した車台(プラットフォーム)づくりにも同時並行で取り組む。
アイサイトだけでは実現できない死亡事故ゼロ
アイサイトとドライバーモニタリングシステムとの連携も進める。わき見運転や、ドライバーの意識喪失などを検知した際に道路端に寄せるなど、ドライバーの状態の異変やミスによる事故を防ぐための対応を強化する。
ADASの高度化で事故が避けられない場合も想定し、早期の救命処置を行うための自動通報システムの採用と通報機能の拡充を進める。現在は、衝突の方向や衝突の激しさ、シートベルトの着用の有無などの情報をコールセンターのHELPNETに自動通報する仕組みだ。今後、各シートの着座センサーのデータをもとに乗員数を伝えたり、歩行者エアバッグの作動から歩行者事故の発生を通報したりできるようにする。さらに、アイサイトの検知結果をもとにした歩行者の救出要請、ドライバーモニタリングシステムと連携した急病時への対応など、事故のけが人の救命率引き上げにつながる情報精度の向上に取り組む。
衝突安全の強化も継続し、歩行者だけでなくサイクリストまで保護できるエアバッグの導入や、衝突場面に応じてシートベルトの拘束力を制御するなどの技術も取り入れる。
ハードウェアにもまだ伸びしろ
車両の応答性のよさや、直進性の高さを追求するため、プラットフォームの開発も継続する。「人間にとって運転しやすいクルマは、ADASや自動運転システムで制御しやすいクルマでもある。プラットフォームの出来が良ければ、電子制御の開発もスムーズに進むだろう」(スバルのプラットフォーム担当者)という狙いがある。
車両の応答性を高め、安心感の高い挙動を実現するため、2020年代はハードウェアの改善に注力する。例えば車線変更するとき、実際にステアリングを操作してから車両が応答するまではタイムラグがあり、スバルでは応答遅れの要因の65%が車体のハードウェアに起因するとみている。ステアリング、サスペンション、クロスメンバー、パワーユニット、ボルトの締結部など車体全体の剛性を高めることで応答遅れを改善する。車体やサスペンションの取り付け精度を高めることで、挙動の正確さも高める。
「開発を進めるうちにエンジニアの欲が出てくるかもしれないが、現時点で挙がっている改善箇所は2020年代の間につぶしきれる」(スバルの担当者)。現在の応答遅れは450msと見積もっているが、これを50ms改善するだけで車線変更時の車両の横位置のブレが半減するという試算だ。
開発したプラットフォームの走行性能をより高精度に計測して検証するため、「実走風洞」も活用する。英国のCARF(Catesby Aero Research Facility)に出資し、CARFが建設中の風洞設備を2022年から利用する計画だ。これは直線2.74kmのトンネルを実際に走行して空力特性を検証する設備で、温度変化や自然風といった外乱を排除しながら、走行中の路面からの空気の流れの影響を確認できる。
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