クリーンディーゼルへ展開を広げるトヨタの「高熱効率・低燃費エンジン群」:エコカー技術(3/6 ページ)
トヨタ自動車が新開発した排気量2.8l(リットル)のクリーンディーゼルエンジン「1GD-FTV」は、同社が2014年4月から展開を始めた「高熱効率・低燃費エンジン群」の1つである。本稿では、1GD-FTVの開発コンセプトや採用した新技術を解説しよう。
(1)エンジン基本骨格の最適化
これら4つの開発コンセプトを基に、「エンジン基本骨格の最適化」「燃焼の革新」「触媒システムのリニューアル」という3つの取り組みが進められた。
「エンジン基本骨格の最適化」で行ったのは排気量の低減である。エンジンの排気量を少なくすれば、エンジン動作による損失や振動・騒音を減らせる上に軽量化も可能になる。軽自動車や小型車の方が、燃費が良く動作音が小さいのは、排気量の小さいエンジンを搭載しているからだ。
既存のKDでは、排気量3.0lの「1KD-FTV」、排気量2.5lの「2KD-FTV」を用意していた。GDエンジンではそれぞれ排気量を減らし、排気量2.8lの1GD-FTV、排気量2.4lの「2GD-FTV」というラインアップになっている。
ただし、排気量を減らすと、ディーゼルエンジン搭載車に求められる出力やトルクが低下してしまう。特に、1つ目の開発コンセプトである「もっと走りやすいクルマ」で述べた発進トルクと低速トルクに悪影響を及ぼす可能性が高い。また、ディーゼルエンジンで排気量を少なくすることは、排気ガスに含まれるNOxやPMを増やす効果もある。
(2)燃焼の革新
この排気量低減のデメリットを解決するのに必要だった取り組みが「燃焼の革新」である。GDエンジンを開発する上で最も重要な取り組みと言ってもいいだろう。燃焼の革新は、「空気量の増加」「燃焼温度のコントロール」「空気利用率の向上」「燃焼エネルギーの高効率変換」という4つのプロセスから成り、これらをまとめて「トヨタ次世代高断熱ディーゼル燃焼」としている。
(2-a)空気量の増加
まず「空気量の増加」で行ったのは吸気ポートの改良である。従来は気筒内に強い旋回流を生み出すように吸気を流し込んでいたが、低圧損化と低流動化によりストレスなく気筒内に空気を流入するような構造にした。これにより吸入空気量は11%増加したという。
吸入空気量の増大は、「もっと走りやすいクルマ」で目指していた発進トルクと低速トルクの向上に貢献する。また、吸気損失も低減されるのでエンジンの熱効率も向上できる。過給機の搭載が前提となるディーゼルエンジンにおいて、大型の過給機が不要になるというメリットもある。
(2-b)燃焼温度のコントロールと空気利用率の向上
「燃焼温度のコントロール」と「空気利用率の向上」で重視したのは、気筒内の隅々まで燃料を均一に燃焼させるための燃料噴射タイミングの制御だ。燃料噴射タイミングは、大まかに分けて「パイロット」「メイン」「アフター」の3つがある。
メインの前に少量の燃料噴射を行うパイロットは、メイン噴射時に急激な温度上昇が起こらないように、外気の状態(気温/気圧)に関わらずメイン燃焼前の温度を一定にするために行う。ここで言う、メイン噴射時の急激な温度上昇が起こると、ディーゼルエンジン特有の「ノック音」が発生してしまうのだ。
ピストンが最も上の位置にくるピストン上死点の直前から始まるメイン噴射では、シリンダーヘッドの形状を利用して、その時点における気筒内の上下2つのゾーンに燃料が流れるようにする。その後、吸気によって発生する旋回流で上下2つのゾーンに流れ込んだ燃料を気筒の円周方向に移動させる。
最後にアフター噴射で、気筒内中央の燃料が少ない領域に少量の燃料噴射を行う。これらの燃料噴射によって気筒内に燃料が行き渡り、可能な限り均一な燃焼が可能になる。パイロット噴射によって「もっと静かなクルマ」に、均一燃焼によるNOxやPMの低減で「もっとクリーンなクルマ」につなげられるというわけだ。
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