2つ目のポイントが、原材料の供給懸念です。中東で起きた危機は、日本の化学産業にも波及しています。
その代表がナフサの調達です。ナフサはガソリンに似た透明な液体で、原油から得られる石油製品の1つです。日本は輸入ナフサの多くを中東に依存しており、これは国内消費量の4割程度に相当します。中東原油由来の国産ナフサも含めれば、実質8割は中東由来とされています。
この依存度の高さが裏目に出て、中東情勢が悪化してからナフサの調達が細り、国内のエチレン設備は減産を強いられました。稼働率は依然として70%を下回っています。減産とは、工場の生産量を通常より減らすことです。国内のエチレン設備は、原料の制約から、生産量を落とさざるを得ませんでした。
この減産は、作る数量が減るだけではなく、多方面から利益に影響を与えます。化学のような装置産業では、設備が動いていても止まっていても、減価償却費や人件費といった固定費が同程度かかります。
つまり、10トン作っても7トンしか作らなくても、設備と人にかかるお金は大きく変わりません。すると、生産量が少なくなると、製品1つにかかる固定費はその分重くなります。さらに、設備の負荷を下げた運転では、原料の収率やエネルギー効率も悪化する傾向にあります。
さらに、減産中の工場は、売る数量が減り、1つ当たりのコストが上がり、原料と燃料の無駄も増えます。三重苦を受けるわけです。
これは装置産業に共通する性質といえます。巨大な設備を高い稼働率で回し、製品1つ当たりの固定費を薄めることで、装置産業は成り立っています。フル稼働に近いほど効率が良く、稼働が落ちると一気に採算が悪くなります。ナフサクラッカーでは稼働率90%が好不況の目安とされています。
では、この操業度の影響は、どのように業績に響いたのでしょうか。
三井化学は減産/販売減少と、収率やエネルギー効率の悪化による減益影響を、4〜6月期で50億円程度、上期では60億円程度と見込んでいます。
またこの影響を受けるのは、エチレン設備を持つ会社だけではありません。ナフサを分解すると、エチレンと同時に、プロピレンやブタジエンといった別の基礎化学品もまとめてできます。従って、エチレン設備が減産すれば、これらの基礎化学品もつられて減ります。つまり、その基礎化学品を受け取って製品を作る、川下の化学メーカーの原料まで減少することになります。
実際、合成ゴム大手の日本ゼオンは、クラッカーから供給される主原料ブタジエンについて、調達できる量に合わせて汎用ゴムの出荷を絞る対応を取りました。原料の調達量に合わせて、出荷も減らした、と考えられます。トクヤマも、原料の一時的な逼迫(ひっぱく)による数量減と製造コストの上昇、ナフサ高が重なり、化成品セグメントの利益は8割減、全社でも23%の営業減益になりました。
さらに海外では、フォースマジュール(不可抗力)も発生しました。
フォースマジュールとは、紛争や災害のような不可抗力を理由に、契約通り供給ができないことを顧客へ通知する仕組みです。通知を受けた顧客側は、その間の供給を当てにできなくなります。
2026年3月、アジアの石油化学では、この宣言が相次ぎました。3月3日、インドネシア最大の石油化学会社チャンドラ・アスリが、ナフサの調達難を理由にフォースマジュールを宣言しています。
日系の化学メーカーに関して言えば、3月5日に、住友化学などが出資するシンガポールのPCSが宣言しました。PCSから原材料の供給を受ける住友化学グループのMMA工場も、翌6日にフォースマジュールを宣言しています。
なお、フォースマジュールを宣言したPCSも、全面停止したわけではなく、負荷を下げた操業を続けています。住友化学の決算では、この影響だけを切り取った金額は開示されていませんが、エッセンシャル&グリーンマテリアルズ事業の売上高は、販売数量の要因で347億円のマイナス(拠点再編の影響を含む)となっています。
幸い、日本国内では、エチレン設備も誘導品も、フォースマジュールの宣言に至った例は確認されていません(2026年8月時点)。減産の段階で踏みとどまった形です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
素材/化学の記事ランキング
コーナーリンク